●『聖なる夜の赤と黒』
「はい、コレ」 と、夏輝が用意してきたプレゼントを赤音に渡す。 それは、緑の包装紙に赤いリボンがあしらわれた、クリスマスカラーの小さな箱だった。 「おぉ、ありがと、な……」 箱を受け取った赤音が、少しぎこちない調子で礼を言う。 「いえいえ、どういたしまして」 夏輝が、ニッコリと微笑んだ。 二人を取り巻くのは、街角を飾るクリスマスのイルミネーション。 歴史ある古都鎌倉も、この時期は極彩色に満ちて、光渦巻く場所となる。 特に聖なる夜である今夜は、夜こそが一日の本番であった。 ――プレゼントを交換しよう。 そう約束したのは、いつだったか。二人ともに忘れていた。 元々、お互いにとってそれは絶対に覚えていなければならないような、重大な約束ではなかった。はずだ。 しかし、イヴが近づくにつれて、夏輝も赤音も、その約束のことを考える機会や時間が増えていって、そして、今宵――。 「じゃあ、俺からも。ほら」 今度は赤音が、用意しておいたプレゼントを夏輝の前に差し出した。 それは、雪のように白い紙袋に、同じく赤いリボンをあしらったプレゼントだった。 受け取った夏輝が、「ありがとう」と、はにかみの笑顔を見せる。 「ああ、喜んでくれれば、嬉しいよ」 赤音が言うが、しかし、やはりその言葉もどこかぎこちなく……。 夏輝は、受け取った包みを両手で抱きしめ、ちょっと所在なさげに視線を彷徨わせ、 赤音も、手の中に収まっている小箱を弄びながら、なんとなく言葉を探して、 「なんか」 口を開いたのは、夏輝だった。 「クリスマスよねー」 彼女は誤魔化すように周囲に目をやって、そんなコトを言った。 「ああ、そうだな、クリスマスだよなー」 赤音も話題に乗ろうとはするのだが、その声が上ずっているのが自分でも分かった。 ……うわ、俺、何意識してるんだろう。 必死に動揺する自分を悟られまいとする赤音だったが、まさか夏輝も同じように自分を隠すのに必死になっているとは思っていなかった。 ヤダなぁ、なんか、落ち着かない……。 どうにも落ち着かない自分に驚きつつ、彼女は、そして彼は、互いへのプレゼントに思いを馳せた。 この日のために夏輝が自分で選んだ、黒皮製のシックな腕時計。 この日のために赤音が自分で選んだ、赤い鮮やかな花柄の着物。 ……腕に付けて、くれるかな? ……いつか着てみて、くれるかな? 互いが互いにそんなことを考えてるとは露ほどにも思わず、二人はまた目線を合わせて、ぎこちなく笑うのだった。 「イヴよねー」 「ああ、イヴだよなー」 そんな微妙な距離感の、クリスマスイヴの二人だった。
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