●『戦場でのクリスマス』
その平原から見る星は、とてもとても鮮やかだった。 「紅茶、冷めないうちにどうぞ」 リーゼロッテに勧められて、灯雪が紅茶の注がれたカップを手に取った。 ゆるやかに風が吹いて、彼女とリーゼロッテの髪を揺らす。 「ああ、美味しいな」 一口飲んだ紅茶は、冷えた身体に染み渡るようだった。まだ淹れたてで熱くも感じたが、その熱が体の芯まで響いていくかの如く感じられた。 リーゼロッテが用意したのは紅茶だけではない。 テーブルの上には、白皿に盛られたクッキーも置かれている。 ハート形のチョコクッキーを摘んで、リーゼロッテが一口。かすかなビターの風味と、続いて広がる甘さが口に心地よい。 「なかなか乙なものだと思わない? 聖なる夜に、星空の下でのお茶会だなんて」 喉に少量の紅茶を流し込んで、彼女が言う。その目は遠くに瞬く星々を眺めていた。 「そうだな。周りの風景も悪くはない。なかなか趣のあるお茶会だ」 周囲を軽く見渡して、灯雪はリーゼロッテに同意する。 真冬だけあって寒いが、寒いからこそのこの星空であり、聖なる夜なのだろう。 だが、同意して直後、灯雪は紅茶のカップを置いてため息を一つ。 「そう、これが純粋にただのお茶会だったらよかったのにな」 ボヤくように言うと、彼女は再び、今度は多き辺りを見回した。 そこにあるのは、平原と、林と、遠くに連なる山々と、輝く月、瞬く星、そしてすぐそばの崩れかけた廃ビル。 「……何が悲しくて、クリスマスイヴをゴースト退治に費やさなければならないのか」 そう。 この夜、二人はゴーストが出没するという廃ビルまで、ゴースト退治にやってきていたのだ。 「もう終わったことでしょう? あんまり引きずっていると、紅茶が美味しくなくなるわよ」 灯雪の様子を見て、リーゼロッテがクスクスと笑う。 ここに出没するゴーストを全て狩り終えて、彼女はこのお茶会を催していた。 「邪魔者はもういないわ。楽しみましょう?」 リーゼロッテにそう言われ、難しい顔をしていた灯雪が紅茶を一口、口に含む。 「……そうだね。そうしよう」 灯雪は一度軽くかぶりを振って、過ぎ去った理不尽を意識の中から払い去った。 リーゼロッテと二人、大自然の中でのお茶会は確かに楽しいから。 「ふぅ、寒いわね」 口から白い息を吐きながら、リーゼロッテが星を眺めた。 「紅茶のお代わりはいるか?」 「ええ、いただくわ」 灯雪がリーゼロッテのカップに紅茶を注ぐ。 紅茶から立ち上る湯気が、香気を散らして風に流れていた。 「今夜のお茶会、お気に召していただけたかしら?」 リーゼロッテが問うと、灯雪は笑顔で返した。 「またやってみたいものだよ。次は、ゴースト抜きで、な」 どこまでも広がる星空の下で、二人の少女は微笑みを交わし合っていた。
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