●『クリスマス。その日の黄昏に、君は輝く』
今夜は年に一度のクリスマス。 銀誓館学園のあちこちでパーティーが催される中、黄昏の光の中で『Twilight Waltz』の名を冠するダンス・パーティーが開かれていた。 思い思いに着飾り、手を取り合う恋人達。色とりどりのドレスが溢れるその光景は、冬に咲く花園のようだった。
そんな中で、一際目を引く可憐な花があった。 一輪はバラを思わせる真紅。華美な装飾を最小限に抑えたシンプルなデザインは、情熱的な色でありながら見る者に清楚な印象を与えていた。 もう一輪は黒百合のような漆黒。丈の短いスカートや袖から覗くフリル、髪と腰を飾るリボンが、大人っぽい色に少女らしい可愛らしさを添えていた。 友人同士でパーティーに参加した嘉と遥である。 「あまり慣れていませんが……こういう衣装も、たまには悪くありませんね」 「そうでしょう? とてもよくお似合いですわ」 踊りながら顔を近づけ、こっそりと囁きあう二人。 女性同士という組み合わせもさることながら、さらに華やかなのがそのダンスだった。 手と手を重ねることはなく、それでも決して互いから離れない絶妙な距離。二人はその距離を保ちながら、所狭しと踊り続けていた。 羽を広げるように両腕を広げたかと思えば、くるりとターンして寄り添い合う。軽やかにステップを刻み、ドレスの裾をひるがえす。 ワルツとは思えないほど大胆なアピールにも関わらず、お互いや他の参加者とぶつかることは一切ない。会場の全てを見透かす魔法のような動きは、まるでシャンデリアから見下ろしているかのよう。 激しく、それでいて繊細な踊りに、まるます見る人の目が釘付けになっていく。
「そろそろ演奏が終わってしまいますわね」 「では、名残惜しいですが……」 再び密やかに言葉を交わす。漆黒と青の瞳が交差した次の瞬間――二人のダンスは最高潮を迎えた。 観客の間から感嘆の溜息があがる。 より激しく、より複雑な動きで踊りながら、嘉と遥は一対の鏡になっていたのだ。 見る者全てが審査員だと言うような、どこからみても完璧なシンメトリー。指先の動きからステップを踏むヒールの音に至るまで、一糸乱れぬその様は美しいと言う他にない。 けれど、何よりも――。 きらめく瞳。のびやかに躍動する四肢。そして心からこのひと時を楽しんでいるその笑顔が、人々を魅了していた。
そして、黄昏の魔法は終わりを告げる。 黄金色のスポットライトを浴びてフィニッシュを決めた嘉と遥を、歓声と拍手が包み込んだ。 二人は静かに腕を下ろして、自然と握手を交わしていた。 「一緒に来てくれてありがとう。遥さんとでなければ、きっとこれほどのダンスは踊れませんでした」 「私こそ、初谷さんと踊れて本当に楽しかったですわ。でも――お礼はもう少し後にとっておきましょう?」 そう、夜はこれから訪れる。聖夜はまだまだ終わらないのだから……。
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