●『二人のクリスマス〜彼と彼女とメロンパン〜』
クリスマスのイルミネーションに彩られた街を眺めながら、少し風変わりなカップルが立っていた。 少女――水葉の右手には栗毛馬の、少年――龍弥の左手には、バイキングが被るようなキャップをつけた白馬のマペットがはめられている。 「寒いね」 水葉は相棒であるマペット『メロンパン』と、プレゼントに貰った左手の手袋を交互に見つめながら、それぞれも同じだけの白く染まった息を吹きかけ呟く。 「そ、そうっすね」 顔を上げ微笑みかけてくる水葉に、龍弥は緊張を抑えられずに震えた声を返してしまう。 憧れていた年上の恋人と過ごす、初めてのクリスマス。少年の体は油の切れた機械のように強張っていた。 (「う、うう。恥ずかしいな」) 対する水葉も、一見クールを装いながらも、心臓は早鐘、今にも踊り出しそうな程に動揺していた。 まだばれてはいない。 でも、手を繋いでしまったなら、すぐにこの胸の昂ぶりは伝わってしまうだろう。 (「だとしても、出来るだけかっこいい自分で、いたいな」) 「そいえば」 「はい?」 そっと、少しだけ触れてきた指先に、龍弥はほっとしていた。 全然なんでもないように見えた彼女も、自分と同様に緊張しているのだと、その震える手指から感じられた。 (「同じなんだ、水葉さんも」) 同じように、自分のことを、今この瞬間を特別だと思ってくれている。 そう理解すると、嬉しさと安堵から、水葉の言葉に自然と――いくらかの照れは見せながらも普通に返すことができた。 「いつまでも比良坂君。って呼んでるのも他人行儀すぎるかな? ……恋人同士なわけだし、なんて呼べばいいかな?」 「名前で……龍弥って呼んでもらえると嬉しいっす」 「……うん、龍弥、君」 まだ、少し恥ずかしいね。 そんな風に照れ笑いをする水葉に、龍弥の方も顔を赤くしてうつむいてしまう。 どちらからともなく触れ、繋ぎ合わされる二人の手。 様々な色の輝きを放つ巨大なツリーを見上げながら、二人の体はそっと寄り添いあっていく。 何よりも素敵な一時を、かけがえのない大事な人と過ごすという幸せを感じながら、恋人達の夜は静かに更けていくのだった。
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