ポンナコッタ・ヴァンプ
& ポンナコッタの真シャーマンズゴースト・フレイム
●『we will walk a story together』
足音が聞こえる。
ぎしぎしと、軋む音。
それは、どんどん近付いてきて、やがてポンナコッタが顔を出した。
とろん、とまどろむような仕草で座っていたテコは、ぱあっと顔を上げ、そんなポンナコッタの方へ駆け出した。でも、すぐにはたっと何かを思い出したかのような様子で立ち止まると、おそるおそるポンナコッタの方を見てくる。
「…………」
ポンナコッタは、そんなテコの様子を黙ってじっと見ていた。テコが少しホッとしたような顔になったのは、近付こうとして駆け寄ろうとしたのに、いつものように睨まれたりせず済んだからだろうか。
ポンナコッタはランプに明かりを灯しながら、ふと、窓の外から差し込む光に目をやった。
空に浮かぶ月は、今宵、どこか普段よりも綺麗に見える気がする。やっぱり、この屋根裏部屋は少し肌寒いけれど、なんだかこの月を眺めていると穏やかになれる気がした。
体が決して冷たく感じないのは、さっき下で食べたビーフシチューのお陰だろうか。……どこか懐かしい味がしたせいだろうか。ポンナコッタの脳裏に、遠く離れた故郷や両親の姿が浮かんだ。
(「強くなって、お母さん……お父さんが、認めてくれる……くらい、強くなったら」)
そっと目を伏せてポンナコッタは思う。
その時は、また……故郷に戻ろう。
だって自分は、強くなる為に来たのだから……。
ポンナコッタが目をやれば、テコは首を傾げる仕草をしつつ、こちらを見ていた。
自分の様子を眺めながら、どうしたんだろう? なんて考えているのだろうか。
「……そういえば、テコ。初めて、会ったときも……上弦の、月……きれい、だったね」
すとん、とテコの方を向きながら腰を下ろして、ポンナコッタは口を開いた。テコはキラキラした顔になりながら、こくこくと頷き返してくる。
もっと近付こうか、どうしようか。腕を伸ばしかけて引っ込めて。結局、相変わらず同じ位置で動かないまま、テコは眠気なんてすっかりどこかへ飛んでいったかのような様子で、窓の外の月と、その月明かりの下にいるポンナコッタを見つめている。
「テコ……お話、聞く?」
うん。
即答するように頷き返すテコ。
(「どうして、かな……?」)
今なら、話せるような気がするのは。あの時の事、こうして能力者に覚醒する前の事……それはもしかしたら、今宵の何もかもが、あの頃を思い起こさせる懐かしさに満ちているからだろうか。
そして……その相手が、テコ、だから……?
「……むかしむかしの、ものがたり」
ポンナコッタ自身にも、その理由は分からない。分からなかったけれど……ポンナコッタは自分の今の気持ちのおもむくままに、言葉を紡ぐ。
テトと、ふたりだけで。遠い昔の出来事を回顧しながら……クリスマスの長い夜は、更けていった。
イラストレーター名:モク