●『雪の中の……』
瞳の中に映る雪は、吐く息よりも白かった。 舞い落ちる冷たい結晶を掌で受ければ、すぐに溶け小さな滴だけが残る。そんな空の様子に蓮太朗は小さく微笑むと、隣りを歩く巳麻に視線を投げた。 賑やかだった学園のパーティも終わり、二人で歩く帰り道は一面の銀世界となっていた。先ほどまで華やかだった場所とは違い、しんしんと降り積もる雪の中では、二人の進む足音しか聞こえない。 巳麻と初めて過ごすクリスマス――何か思い出になることを。 蓮太朗はそんな事を考えながら、ようやく思いついたアイデアに足を止めた。 せっかくペアの指輪を買ったのだから。 「指輪交換の真似事をしてみないか?」 さく、と小さく音がして巳麻の足が止まった。 自分を見返す巳麻に、蓮太朗は小さく笑うと掌を開いた。そこにあったのはプレゼントとして用意しておいたシルバーリングだ。蓮太朗が促すように指輪を見せれば、最初は戸惑い気味だった巳麻もその提案にうなづいた。 (「お互いリングを贈り合うとか、意外と気が利くこと考えるなあ」) パーティの余韻を楽しむように、浮かれた心地が巳麻の中に生まれる。二人きりの聖夜は特別なことが許されるのだろう。 蓮太朗の手が巳麻の手を取り、左手の薬指にそっと触れた。その指に握られた指輪には小さな星が彫られ、雪空で見えない代わりにそこへ鎮座しているようだった。暖かな指の触れ合いに巳麻は少しうつむくと恥ずかしそうに頬を赤らめる。 その唇がふっと小さく息を吐くと、雪と一緒に白い息が舞った。 「何か………」 紡ごうとした先の台詞は、頬の赤さに比例して完成させることができない。 薬指へゆっくりと収まってゆくシルバーリングと、白く美しい雪の色と、優しく握られる蓮太朗の手――巳麻の胸の奥から溢れ出たいはずの想い。 そんな彼女の様子を見て、蓮太朗の唇は優しい言葉を紡いだ。 「結婚式みたいだな?」 同時にこぼれた笑みは穏やかで優しい。舞い落ちる雪はライス・シャワーのように降り、静かに辺りを汚れのない白へ染めてゆく。 雪の中の花嫁は数回瞬きをすると、りんごのように頬を赤くした。 「………馬鹿」 寒い冬なのに頬が熱い。 小さく呟いた巳麻の声は、雪色の髪を持つ新郎に届いただろうか。
二人の想いはリングの裏に刻まれた名前と共に――。 雪は聖夜の帰り道を静かに見守っていた。
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