●『暖冬』
きれいな橙色の夕日に染め上げられた、人気のない静かな公園。 片隅にすえつけられたベンチに並んで座るのは、コンビニ帰りの煉と冬霞だ。手にした袋には、肉まんとあんまんが入っている。 隣に座る煉の顔をちらちらと、冬霞は思う。 ゴーストタウンや食事などはいつだって一緒に行っているというのに、こうして並んで座っているだけで、どうしてこんなにもドキドキするのだろう――。 赤くなっていく頬を自覚しながら、冬霞は袋から肉まんを取り出して煉に手渡す。 「ありがとう」 礼を述べてから、煉は肉まんにかじりついた。ふーふーとあんまんを冷ましている冬霞の様子を時折見る。 彼女の頬が赤いのは、寒いからかななどと思いながら、煉は楽しげな笑みを浮かべた。 煉にはこれがデートであるという認識はなく、ただ単純に二人で散歩をしているだけという感覚のようだ。 冬霞もまた煉の様子をうかがっていたが、ふと彼が白い息を吐いているのに気付いた。 寒いからと巻いていたマフラーを外すと、ためらいがちに手を伸ばし、冬霞は煉の首元にそれをかけてやる。 「私は寒さは大丈夫ですから」 言いながらも、冬霞の吐く息は白く冷たい。 煉はかけらかれたマフラーに手をやった。元よりかなりの長さがある品である。長さを持て余した煉は、余った部分を冬霞の首にゆるくかけて。 「寒さは平気だからって、風邪を引かないワケじゃないでしょ?」 穏やかに微笑みかけてから、煉は改めて肉まんにかじりついた。 「うん、おいしい」 顔をほころばせる煉。冬霞はあんまんを冷ますのも忘れ、一瞬、煉に見入っていた。 優しくかけられたマフラー、隣にある体温。 痛いくらいにドキドキと高鳴る胸にふいと顔を俯けながら、冬霞はぽつりと呟くように言う。 「……先輩……あったかい……ですね」 小さな冬霞の言葉に、煉は笑顔とともに返し。 「うん。一緒に居ると、暖かいよね」 『あたたかさ』の意味の捉え方の違いはあれど、穏やかに、そしてゆっくりと時間は過ぎていくのだった。
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