●『星のささやき〜whisper of stars〜』
クリスマスを迎えた銀誓館学園は、賑やかという表現を遥かに凌駕する賑わいを見せている。 多くの学生達が一時、一秒すら惜しむかのように、この一日を楽しみ尽くそうと全力を注いでいるのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。 そんな湧きあがる学園の喧騒から抜け出した二人……りぃんとリオートは一瞬、別世界にでも迷い込んだかのような錯覚を味わった。 そこかしこから響く人々の楽しげな声や流れてくるクリスマスソングを背に二人が足を向けたのは、鎌倉の郊外に位置する自然公園である。 クリスマス一色という街の賑わいも手伝って二人以外の人影はない。 静まり返った公園には、真っ白な絨毯のように、うっすらと雪が降り積もっていた。 空気はつめたく澄みきっていて、遠くから聞こえてくる喧騒がこの場所の静けさを一層引き立てるかのようだ。
その中を、ゆっくりと散歩しながら……二人は互いへと言葉を紡いでいく。 「リオートってロシア語で氷って意味だよね。リオ君はロシアで生まれたの?」 そう尋ねると、りぃんはリオートの腕にぶらさがるように両腕で抱きついた。 「行ってみたいな。リオ君の故郷」 「故郷、か……」 抱き付かれた事に恥ずかしそうにしながら、リオートは言葉を続けた。 「うん、りぃんちゃんが望むなら……いつか一緒に行きたいね」 その恥ずかしそうな態度の中に、何か別のものも含まれている様な気がして……りぃんは少し不安を感じながら夜空を見上げた。 リオ君……少し……困ってる? 「行けるよね? 空はどこまでも続いているんだから……」 その言葉に、あるいは同じように……大切な人の心の内に、微かな何かを感じたのか。 「……そうだね」 リオートはりぃんの顔を見つめ、微笑んだ。 「僕達が出会ったのも、きっと星が導いてくれたから。だから……」 大切な人を、抱き寄せて……言葉を、紡ぐ。 「先に進む道も星が照らしてくれると思うよ」 りぃんはその笑顔を見つめた。 「……うん」 静かに……微笑み返す。 「照らされた道を……二人で、歩いていこうね?」
夜空を幾筋もの流れ星が、静かに駆け抜けていき……二人の影は、いつしか……一つに重なる。 その姿を……シリウス、プロキオン、ベテルギウス、リゲル。 冬の空に輝く星達が、いつまでも、優しく……照らし続けていた。
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