咲河・晴 & 六条・一馬

●『家庭教師はサンタさん☆』

「この数式は、……こう、か? ……ふう。なかなか、術の習得のようにもいかないものですね」
 こたつに入って、数学の問題とにらめっこしている一馬。
 ふぅ、とため息をついて、ずず、と日本茶をすする。机のすみっこには、みかんが三つ四つと並べてある。それに手を伸ばして、
(「さて。少し休憩でもしましょうか。……いえ、さっき休んだばかりでしたか」)
 手を引っ込める。机の反対側のすみには、すでにみかんの皮が四つ五つと。
(「……ええ。では気合を入れ直して」)
 一馬は、鉛筆をにぎりしめる。
 そう、今年はいよいよ、受験の年だから。
 そんな一馬を、和室の扉からこっそり見守っていた晴。
(「うん。いそしんでいるようですねえ。ぱあっと楽しんでもらうため、私が一肌ぬぎますよ」)
 そっと部屋に入っていく晴。一馬の後ろに回って、
「のわぁっ……な……な??」
 思わず、鉛筆をぽとりと取り落とす一馬。
 頭にかぶせたトナカイカチューシャ。似合っている。
「えーと……ト、トナカイって……どんな貝かい」
 ノッてるつもりの、一馬。
「……え、あれ?」
「ふふ。勉強、頑張ってるみたいですねえ」
 振り向くと、サンタ姿の晴。ミニスカートが、とても眩しい。
「も、もちろん」
 一馬は少しどきどき、頬を赤くする。
 サンタの家庭教師。晴は、学力をプレゼントに来たのだ。
「まさに勉強で苦しみますなクリスマス……サンタコスで教えてくれるなら……」
 なんて言っていた、一馬のために。
 ミニスカをはいたときは、
(「しかしさむい! こ、これはもうミニスカ限界の年ですか……!?」)
 と戦慄を覚えた晴だったが、一馬の喜んでくれているらしい様子を見ると、まだまだいけるぞ、と思えてくる。
「さて、では始めましょうか」
「えっ、あ。そうでした……」
 すっかり勉強のことを忘れそうになっていた。
(「……ようし。俄然やる気がわいてきました……!」)
 一馬は、改めて鉛筆をにぎり直す。
 ひとしきり勉強の時間も過ぎ、ひと息つくと、
「他に、ほしいプレゼントはあります?」
 聞いてみる晴。
「ええっ、と……」
 ミニスカサンタの晴をもう一度見て、またほの赤く頬をそめる。
 今はこれで充分かな。うん。
 一馬はひとり頷く。
 外は、しんしんと降り積もる雪、雪。
 二人の部屋には、あたたかな空気が満ちあふれていた。



イラストレーター名:JURI