●『1/365の Sweet Night』
クリスマスの夜。美味しそうな料理が並んだテーブルにつき、依は心の中で緊張していた。実は少しだけ背伸びをして用意したディナーである。今日はせっかくのクリスマス。聖夜くらい恋人らしく甘えて過ごしたいな……そんな乙女の夢を知ってか知らずか、普段はあくまでも良い相棒としての関係である恭は、いつもどおりの賑やかさで美味しい美味しいと料理を口に運んでいた。その恭も、大好きな依から秘密のお誘いを受けたからと勝負服を身につけて、男を上げるチャンス! と気合はたっぷりだった。 ディナーの後、ホワイトクリスマスと呼べるような雪がちらつき、イルミネーションの輝く街角でベンチに並んで腰かけた依と恭。ロマンチックな雰囲気のまま、ドレス姿の依を白く舞う雪から庇うように抱き寄せて、自分のコートで包み込んだ。 「寒くないか? 九枷」 「大丈夫だよ、緒毘徒」 おどけたように言った恭だったが、そんな彼からの全力のエスコートに、いつものギャグではないなにかを感じた。そんな仕草に微笑ましく感じられた依は、恭にそっと身を預けるようにする。 「ふたりだと、あったかいんだね」 「そうだな、九枷ってこんなに暖かかったっけ」 「……!」 「そういえば、プレゼントの交換するんだったよな」 「あぁ、うん。そうだったね」 今思い出したかのように照れ隠しでふたりは言い合いながら、それぞれのプレゼントを相手に差し出した。依から恭へは、少し不格好だけれど愛情のこもった手編みのミトン。恭から依へは、結婚式で使うようなシルクの長手袋。 「プレゼントが被るなんて! 俺たちやっぱり運命の糸で結ばれてるんだな!」 「そうだね、緒毘徒はやっぱり私の運命の人だったのかも」 「大好きだぜ、九枷!」 それにしてもこの手袋は、いつ使えば良いのだろう。手触りの良いシルクの手袋を持って恭のコートに包まれたまま、依は軽く呆れつつも、いつまでも世慣れしない恭を可愛く思うのだった。
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