●『 I'm half crazy, All for the love of you 』
学園で開かれた黄昏のダンスパーティー。 誰ぞ彼は――『黄昏』と言われる時間であっても、一人はすぐに目につく。 「さなえさん」 幼馴染みの姿を認め、騰蛇は小さく呼び掛けた。 その呼び掛けに、僅かに視線をさまよわせていたさなえは顔を上げる。騰蛇の姿を認め、ふわりと笑みを浮かべた。 「騰蛇さん」 柔らかな呼びかけに騰蛇は瞬く。 数々の淡いキャンドルライトの灯る中、青いドレスを着たさなえの姿は光に揺れる陽炎にも似て――思わず、消えないようにと手を取った。 「……踊っていただけますか?」 指先に触れる熱に、微かな安堵の吐息を漏らすと騰蛇はさなえへと問いかける。 触れる指先の、込められた力にさなえは瞬いた。けれど、答えは肯定でしかなく「はい」と微笑む。 騰蛇はもう一方の手を差し出し、さなえは騰蛇の手に自らの手を重ねた。 緩やかに響く曲に合わせ、二人はゆらゆらと踊る。
学園で開かれたパーティーには、参加者はたくさんいる。 けれど、まるで二人だけのような感覚。――それが錯覚であっても、騰蛇の中に溢れるのは、さなえに対する想い。……感情。 キャンドルの灯りが揺れる中、どちらが先か……わからないまま、二人でぎこちなく抱きしめ合った。 触れる体温。柔らかな重み。 十余年以上続く幼馴染同士で……大切な存在。 恋しい、愛しい……一つや二つの言葉で、想いは表わしきれない。 ――唯一の、人。 目と目がぶつかった。 瞳に宿る光は……映る感情は、騰蛇もさなえも同じモノだろうか。 どちらからともなく顔を寄せ合うと、騰蛇の髪とさなえの髪が僅かに触れ合い、交じりあう。ほんの一瞬……触れるだけの接吻を交わした。 まるで、花びらが触れるような……舞い落ちて、消えてしまう雪のような淡い口付け。 離れた瞬間、吐息が触れ合った。視線が、絡まりあう。
互いに、わかった気がした。――伝わらないままのようにも思えた。……けれど。 離したくない。……離れたくない。 それだけは、確かなことだった。
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