●『おくりもの』
クリスマスの晩に、主人である茅にゴーストタウンに誘われて真昼は困惑した。 せっかくのクリスマスである今日くらい、ゆっくりしても……そう思う。 しかし主人がそう言うなら、従わざるを得ない。 恋人はいなくとも巫女のいる彼と違って、自分には彼しか居ないのだから。
帰途。 宵の口、クリスマスなのに小さな駅のホームは人気も無く、はらはらと雪の舞う中、しんと静まり返っている。 ベンチに座っている茅は項垂れて動かない。疲れて眠ってしまったのだろうか。
「――何もこんな日にゴーストタウンになんて行かなくても」 隣に立っている真昼は茅を見やり、そう独りごちた。 「こんな日だからだよ」 突然、寝ていたはずの茅が顔を上げて、真昼は面食らった。どうも腑に落ちない釈明を思案していると、茅がまた口を開く。 「恋人や家族がいる子は、今日こそ楽しく過ごさないといけないからね」 ゴーストの方は年中無休だから、彼らの分も私達は今日、頑張らないと。主人はそう語った。 「クリスマス精神に則って行われたものだったのですね」 そう、意外にも。 「そうだね」 真昼は自分の浅慮を恥じ、小さく呟く。 「茅様にもプレゼントを用意しなくては……」 「それには及ばない」 自分で用意している、と茅は膝の上を指し示した。そこにはいつのまにかケーキの箱が乗っている。箱を開くと、ホールのショートケーキが現れた。 「こ……今年は買わないって言ったのに!」 渋面で脳内家計簿を開く真昼に、茅はいい笑顔を向ける。 「これは私からのプレゼント」 そして笑顔のまま、真昼に苺を差し出した。ほんの少しクリームがついた真っ赤な苺。これは食べるべきか……真昼は困惑した。 「それに君からはもう貰った」 「……?」 「君が生きて帰って来たのが、何よりの贈り物だよ」 思いも寄らない言葉で、真昼の目頭が熱くなった。
結局真昼は、苺は遠慮した。 ――そのお言葉だけで、勿体無い程ですから。
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