●『Special Christmas Night』
校舎を抜け、千晴とアリスが向かったのは学園の屋上であった。 千晴は数年前までよくここへサボりに来ていた。変わらない風景に、少しだけ笑う。 吐く息の白さに驚きながら、アリスはいつもと雰囲気の違う夜の屋上にほうと嘆息を吐いた。 吹き抜ける風は冷たく、アリスは心配そうに千晴を見上げた。 「千晴様が風邪を引いては大変です」 アリスのセリフに、千晴はくすくすと笑う。 「受験生の自分を心配しろよ」 言いながらアリスを傍へと招き寄せ、「風除けになってやる」とまた笑って。 照れるアリスを近くで見てみたいとの欲求も、多少千晴にはあった。 だが実際に距離が近くなると、妙にくすぐったい気分になり、アリスの前髪を乱暴になでる。 (「あ、せっかく髪型も整えてきたのに……!」) ふと思うアリスだったが、千晴になでられているのが嬉しくて、自然と顔をほころばせていた。 「追い込み勉強手伝ってやるよ」 変わらず笑うアリスに、千晴はこれまで何度も毒気を抜かれているような気がして、照れ隠しに自身の乱れた髪を撫でつける。 アリスもまた千晴の気遣いや笑顔に、今まで重苦しくて好きになれなかった受験勉強が、彼と一緒なら最後まで頑張れる気がしていた。 「メリークリスマス、です」 思いのたけを伝えようとアリスがおずおずと取り出したのは、青地に銀のラインが入ったリボンのかけられた小箱。 「開けてもいいか?」 千晴の問いに、アリスはこくりと小さく頷く。千晴はする、とリボンをほどいて箱を開けた。中から表れたのは1本の腕時計。 うつむくアリスの顔が少々赤いことに気付いて、千春はにやりと笑う。箱から時計を取り出すと、それをアリスに渡した。 「よし、褒美に俺様の腕につけてみろ♪」 そうすれば、もっと近くでアリスの照れた顔が見られると思うのは、好奇心と少しのいたずら心から。 再び小さく頷くアリス。差し出された時計を受け取ると千晴の手首に巻くために一歩近付いた。 思いのほか近い距離に熱くなる頬を隠すようにうつむいて、アリスはそっと千晴の腕に手を伸ばす。 これからも一緒に時を過ごせたらいい――そんな思いでアリスがこのプレゼントを選んだことはまだ秘密だ。
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