●『初めてのクリスマスプレゼント……?』
街を飾り立てる光彩は、まるで道行く人々の全てを祝福しているかのようだった。 だが、祝福されながらも、誰も彼もが笑顔でいるというわけではない。 例えば、現在リアルタイム進行で怒りを募らせている悠夏などがそうだ。 「……わたくしといるのに」 と、彼女は隣を歩く冬馬に向かって厳しい眼差しを向けた。 「え、あ……」 睨み付けられた冬馬は、身を竦ませて小さく声を出した。その挙動が、悠夏の苛立ちをさらに加速させた。 「わたくしといるのに、トーマさんは他の女性が気になるようですね」 と、彼女は叩き付けるようにして冬馬に言葉を浴びせた。 何せ彼と来たら、デート中だというのにまるで落ち着かない様子で視線をあちこちに泳がせているのだ。 せっかくのデートだというのに、これではいい気分になれるはずもなかった。 彼女が苛立っている理由は、それだけではないのだが。 「そんな、誤解だよ……」 冬馬が言うが、その声は小さくて、悠夏は説得力を感じることが出来なかった。 彼女は小さく息を吐いて肩を落とすと、そっぽを向いて告げた。 「……先に帰らせてもらいますわ」 本当は、こんな態度で彼に接したいわけではないのに、と、思いながらも悠夏は自己を修正することも出来ずその場から歩き出そうとする。 だが、その手を冬馬が掴んだ。 「その……」 驚いて振り向いた悠夏に、彼はおずおずながらも、 「日本じゃ、クリスマスの日には誰にでもキスをしていいって聞いてたから……、悠夏さんに、他の誰かが近づかないか、不安で……」 自信なさげに言っているものの、彼の悠夏を見る目は真っ直ぐで、逆に悠夏が気恥ずかしくなって思わず目を逸らしてしまうくらい真摯であった。 「そ、それは、ヤドリギの木の下に限った、外国の風習ですっ」 目を逸らしたまま、彼女は固い声でそう答えた。しかし、 「何より……、わたくしは、トーマさんだけのものです」 一拍の間を置いてからのその言葉に、固さなど微塵もなかった。 「悠夏さん……」 自分を見る冬馬の首に、悠夏は鞄の中から持ち出したマフラーを巻いた。 それは、彼女が彼に用意したプレゼント。恥ずかしくて、言い出せなくて、なかなか渡せない自分自身にも、彼女は苛立っていたのだった。 「ありがとう」 冬馬が優しく微笑んで、悠夏の手を握った。 「僕も、今日だけは悠夏さんのものだよ」 そして、二人は見つめ合い、静かに唇を触れ合わせた。 淡いキス、だけど、体中に幸福が満ちていく。 特に、冬馬は首に巻かれたマフラーの感触が柔らくて、温かくて、息苦しくて……。 ……息苦しくて? 「と・こ・ろ・で、今日だけというのはどういうことですの……?」 「あれー、苦しいんだけど、気のせいかなー……?」 怒り笑顔の悠夏にマフラーでギリギリ締め上げられて、冬馬は顔を真っ青にしていた。 だがそれもまた幸福の証なのかなと、意識を薄れさせつつ考える冬馬であった。
| |