●『咄嗟の出来事』
二人は、天使のぬいぐるみを作っていた。互いの姿を模した天使を作って、交換する約束をしているのだ。二人とも、順調に縫っていたのだが……。 「いたっ!」 少々不器用なメイベルは、うっかり指に針を刺してしまったのだった。彼女の白い手に、赤い血が滲んでいく。 「あら、血が……」 そのことに気がついたリーゼロッテは、メイベルの手を取る。そして、 「ほら、メイベル。化膿するといけませんわ」 血の滲む指をくわえて、止血しようとしたのだ。 「リ、リゼ……?」 メイベルは、真っ赤な顔で、呆然とリーゼロッテと彼女にくわえられている指を見ていた。リーゼロッテは、しばらく……メイベルの血が止まるまで、指をくわえていた。 そして、血が止まった時、リーゼロッテはようやく我に返る。そうなると、この状況が急激に恥ずかしく感じて……。慌ててメイベルの指から口を離して、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。 「……あ、わたくしったら、今何を……」 同じくメイベルも、我に返る。こちらも、顔を真っ赤にして少し慌てている様子で、うつむいてしまった。 「う、すまん、リゼ。あ、ありがとう……」 そのまま、二人は頬を赤く染めたままで何も言わずにうつむいていたわけだが……。 「そ、そろそろぬいぐるみ作りを再開するか」」 「そ、そうですわね……。気をつけてくださいませ、メイベル」 二人は、相手の顔を見ないように、再びぬいぐるみ作りに没頭するのだった。
相手の顔を見るのが恥ずかしい。相手から目を逸らして作るぬいぐるみは……恥ずかしくて見られない相手の姿を模した物。そのせいか、メイベルもリーゼロッテも、先ほどよりも手つきが危なっかしくて。 「……いたっ!」 「きゃっ!」 二人とも、指を刺してしまうのだった。そして、相手の声に振り向き、 「大丈夫か?」 「大丈夫ですの?」 互いの心配をして。その時に目が合ってしまって、恥ずかしさにまた頬を染める。
何度もそんなことを繰り返して。ぬいぐるみが完成する頃には、二人の指は傷だらけ。それでも……二人とも、完成したぬいぐるみを愛しげに見つめているのだった。 交換したぬいぐるみは、相手が自分を大事に想っている証。この天使のぬいぐるみには、たくさんの想いがこもっているのだから……。
| |