四神門・薫 & イアハム・ヴォレンティーナ

●『激突!聖夜の殴り愛』

 クラッカーのパァンという小気味良い音と共に、紙テープと紙吹雪が舞い上がる。
 そして『メリークリスマス!』と、明るい声が重なった。
 ――そう、今日はクリスマス。
 この日結社『漢部』では、賑やかなパーティーが開催されていた。
「乾杯!」
 ソフトドリンクの注がれたグラスが鳴り、和気藹々と談笑しながらテーブルに並べられた料理を食べ始める結社メンバー。
 美味しそうな料理の中でも、一際目を惹くのはそう……やはりクリスマスケーキだ。

「ふむ……美味そうなクリスマスケーキじゃのう」
 身長2m近い巨漢がケーキを見下ろし、不敵な笑みを浮かべた。この男の名、四神門・薫。とりわけ甘いものには目がなかった。
 特に目を惹き付けられてられている部分は、ホワイトチョコペンで『メリークリスマス』の文字が書かれたチョコレートプレートだ。
 ……この部分を是非食べたい。とても食べたい。
 虎視眈々と狙う薫は、ケーキが切り分けられた刹那にチョコレートプレート部分に手を伸ばす。
 ――だが。
 薫の前からそのケーキ皿が消えたのは、一瞬の出来事であった。
「はっはっは〜! この『メリークリスマス』と書かれたチョコの板は俺が貰ったがね!」
 豪快な笑い声が室内に響く。
 薫の目の前からケーキを奪った人物……それはもう一人の甘党なマッチョ、イアハム・ヴォレンティーナ!
 イアハムは勝ち誇った表情でフォークを刺し、チョコレートごと一口で食わんとする。
 しかし黙ってみている薫ではない。
「い、いかーん! そのパリパリチョコレートのプレートわワシのもんじゃー!」
 大声と共に巨体がイアハムに飛びかかる。薫が手にしたフォークはチョコ板を狙い、見事それを突き刺し奪い返した。
「な……何をするがね!」
「それはこっちの台詞じゃーー!!」
 続いて薫とイアハムの顔面に、互いの拳が炸裂!
 瞬く間に、2m級の巨漢同士が肉体をぶつけ合う戦場と化す。
 ……さっきまでの楽しい雰囲気はどこへやら。
 ケーキも空を飛び、今ここにチョコレートプレート争奪戦が始まるのだった。

 ――果たしてチョコの板はどちらの手に!?



イラストレーター名:松