●『ホーリーパニック』
彼は、彼女の前で、彼女のベッドの上で、横になっていた。 それも当然、なぜなら彼女が、よつは自身が「マッサージしてあげる、横になって」と頼んだからだ。 時はクリスマス、場所はよつはの自室……のベッドの上。 うつ伏せになった彼……学は、背中越しに声をかけた。 「ごめんな? 最近あんまり相手できなくて」 「うん……」 そうだ、学は最近忙しい。 それは仕方ない。けど、それでも、やっぱり。 「……こんなコトさせるのは、学のせいなんだからね」 「ん? 何か言ったかい?」 「ううん、なんでもない」 言いつつ、よつは彼の上に乗った。 「……うっ……?」 上に乗っかられた学は、何か悪い予感を悟ったかのように、妙なうめき声をあげた。 そのうめき声を聞き、よつはは更に放出する。あえて殺気めいた謎の気配を部屋の内部へと散布し、空間そのものを日常から剥離する。 「……えっと……よつは、さん?」 その謎の気配を察知した学は、恐る恐るといった口調で問いかけた。 「いつも……」 ぽつりと、よつはは言葉を紡ぎ出した。 「いつも……いつも忙しいのは知ってる、いつも、時間が無いのもわかってる……」 静かな口調で、淡々と。よつはの言葉に、学は聞き入っていた。 「……よつは……」 「けど……けど……」 口調が、徐々に変化し、……突然。 「けど……たまには構ってよぉ!」 叫びとともにガバっと組み付き、うなじにがぶっとひと噛み。 もちろん、噛まれる側の人間の事情など知ったコトではない。 「いっ!」 痛いのと驚いたのと、さらについでに己の状況の不利さに気づいたのとで、学は情けない声を上げた。が、逃れるには時既に遅し。 「わっ! ちょ! おい! 話せばっ! 話せばわかる! わかるから!」 そんな学の抗議の声など聞く耳持たず。よつははさらにつかみかかり、がぶっと噛み付き、引っかき、更にはキスの雨を降らしまくる。 「わかんない! 悪いのは学なんだからぁ! お仕置き!」 くんずほぐれつの、もみ合いへし合いつかみ合い。その間にもよつはによる噛み付き痕に引っかき傷、そしてキスマークが、学の顔から首筋を覆っていく。 逃れんとする学ではあるが、そんな彼を逃がすよつはでもない。がしっと組み付き、締め落とすような体勢に。 「何処のどなたかヘルプミー! 美少女に襲われ、ドキドキするほど大ピンチです!」 しかし、学のSOSを聞き入れ助けに来る者は、幸か不幸か存在せず。 「これからは、もっとよつはのこと、かまってよぉ!? わかった!」 「ぁい……」 もはや失神寸前、絞殺死体いっちょあがりになる寸前で、よつははその腕を離した。 「うんっ、わかればいいのっ! ん〜♪ すっきりしたぁ〜♪」 「俺はすっきりしねぇ〜」 よれよれになっている学を起き上がらせると、よつはは正面から彼を見据えた。 「それじゃあ、すっきりさせてあげる。いっしょに……ちゃんとクリスマス、しよっか?」
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