●『White Silent Night』
今宵はクリスマス。 人気のない並木道を、舞華と鏡は2人並んで歩いていた。 「さすがにこの辺りまで来ると静かだな」 「そうね……くしゅっ!」 「大丈夫か? ほら、しっかりマフラーを巻いていろ」 小さくくしゃみをした舞華を見て、鏡はマフラーを直してやった。白い猫耳フード付きのコートに、鮮やかな赤はよく映える。 その先を辿れば、黒いロングコート姿の鏡自身の首にも巻かれているのがわかる。 あらためて、2人で1つのマフラーをしているのだなと思い、舞華は少し照れたように笑った。 「どうする、戻るか?」 「ううん、大丈夫。マフラー、直してくれてありがとう。あったかくなりました」 少し心配そうに言う鏡に、舞華は笑って首を振る。 2人は銀誓館で行われているパーティーを抜け出してきたのだ。賑やかなのもいいけれど、せっかく2人きりになれたのだからこのままでいたい。 「そ、それから……」 「それから?」 「……手を繋いでくれたら、もっとあったかい、かも」 少し驚き、そして優しく笑う鏡の顔を、気恥ずかしいさで目を逸らしていた舞華は見ることができなかったけれど、そっと右手に触れたぬくもりで彼の返事を知ることができた。
「……肌触りがいいな、この手袋」 「でしょう? もこもこしててかわいくて、気に入ってるの」 「そうか」 「うん」 「……」 「……」 沈黙が落ち、さくさくと雪を踏む音だけが響く。 「……似合ってるぞ」 「そ、そう? ありがとう」 「ああ……」 「……」 「……」 ぽつぽつと他愛もない会話をしてはふたたび落ちる沈黙。手を繋いでからというもの、ずっとこの繰り返しだった。 けれど2人の間に流れる空気は気まずいものではないということは、その表情を見ればすぐにわかる。 まるでここだけ春が訪れているかのような、やわらかでやさしい微笑みが浮かんでいた。 こうして2人でいられることが、とても幸せで――けれどどうしても照れてしまうから、なんとなく無言になってしまうのだ。 そんな2人の間に、ふわり、と何かが舞い落ちる。 とっさに顔を上げた舞華は、喜びの声を上げた。 「わあ、雪が……!」 「ホワイトクリスマス、か」 鏡も嬉しそうに目を細める。 しばらくの間息を潜めていた雪が、しんしんと聖なる夜に降り注ぐ。 「クリスマスに降る雪って、なんだかいつもと違って見えるね!」 「ああ……そうだな」 鏡は何かを言いかけて、結局相槌を打つだけに留めた。 言えばきっと、照れる舞華のかわいらしい表情を見られたのだろうけれど……今は、その弾けるような満面の笑顔を見ていたかったから。
はしゃぐ舞華と、穏やかに見守る鏡。 どんなに寒い夜でも、胸があたたかさで満ちるような……聖なる夜にふさわしい光景がそこにあった。
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