●『聖夜に輝く月は優しく全てを見守る』
クリスマスをふたりでめいっぱい楽しんだ帰り道、イルミネーションで彩られた街を歩けばそのまま別れてしまうのもなんだか名残惜しくて。きらきらと美しく飾られたクリスマス・ツリーの見える公園の前で立ち止まる。 「……ちょっと、寄り道していこうか」 右京の言葉に葵はこくんと頷いて、その公園にちょっとだけ寄り道していくことに決めた。 他にもちらほらとカップルの姿が見受けられたものの、幸い手頃なベンチが空いていたのでそこに腰掛けて、今日の一日をふたりで振り返る。 雪合戦を模したパーティでは、かわいらしい真っ白な丸い毛玉が飛び交って、その毛玉たちはまるで楽しそうに飛び交うモーラットのように見えたこととか。 右京の使役するモーラットのルナや他のモーラットたちも、一緒に参加出来ればもっと楽しかっただろうなと思ったこととか。 仮装ダンスパーティでは、礼服にモノクル姿の怪盗とモーラットの仮面を付けたお姫様に扮して、いつもとちょっぴり違う気分で一緒に踊ったこととか。 ロマンチックなキャンドルパーティでは、地上絵のように並べられた美しいキャンドル・ツリーを寄り添って眺めながら、これからも共に過ごすことをふたりで誓い合ってみたこととか。 たくさんのパーティ会場を回って、たくさんの思い出を作った。 「……楽しかったな」 「ええ、とっても」 どちらともなく微笑み合って、お互いに『今日は有り難う』と伝え合う。 そうしてたくさん、たくさん作った思い出を振り返り、共に在るよろこびを分かち合ううち……時計の針はいつの間にか深夜0時を過ぎていた。 「……遅くなってしまったな、そろそろ帰ろうか……」 大男の自分はまだしも、こんな可憐な姿の葵を深夜まで付き合わせてしまっては申し訳ない、と。右京は立ち上がり、手を伸ばす。 「……送るよ」 葵は名残惜しそうにその手を取り、公園のベンチを後にした。 それから、手を繋いで少し歩いて。葵の家の近くまで差し掛かった頃。 「葵……」 右京の腕が葵の腰を抱き寄せて、しっかりとその身体を包み込む。 「……右京さん」 そして静かに唇が重ねられ、しばらくの間、ふたりはそうして愛を交わし合った。 聖夜に輝く月だけが、全てをやさしく見守っていた。
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