●『戦わなきゃ、条例と…』『戦わないよ!?』
クリスマスなんだから、遊びに行きたい! 灯萌からの連絡に、惣七は何の疑問も持たずに彼女の家を訪れた。それなのに、辿り着いた惣七の視界に映ったのは、机に真っ直ぐに向かってマンガ原稿の修羅場中の灯萌の姿。 デートの為にお洒落して待っているかと思いきや、ほぼ部屋着のままだし。 「……出掛けて大丈夫なの?」 「ダメ気味……」 あまり感情を映さない瞳がそれなりに真剣なので、思わず聞いてしまう。が、返ってくるのは切ない返事。 「手伝おうか?」 惣七の言葉に、灯萌はやっと彼の方へ視線を向けて、頭の先から足の先まで、舐めまわすようにじーっと見詰めてから呟くような口調で、しかしはっきりと言った。 「ヌードモデル……なら」 「さぁ出掛けようか!」 お断りである。
あっさりと出掛けることに決まり、外を歩く二人。 「何買うの?」 まずは買い物を……と言う灯萌に、訊ねる惣七。一軒の店に目を止め、入口のドアを開けながら灯萌は特に気にする様子もなく言う。 「勝負服……」 「勝負する相手と買っちゃうんだ!?」 部屋着のまま出て来てしまった灯萌だから服を買ってもいいのだろうが、せっかくの勝負服を一緒に買っちゃうとか興ざめじゃないのか? と惣七は頭を捻る。 「いえ、勝負するのは……先輩とじゃなく……」 惣七の心配をよそに、灯萌はバッサリと切り捨てる。 それは……少し、ショックだ。 「条例と」 「すごくショックだ! っていうか負けとこうソコとは!」 「あと勝負下着……」 「聞いてよ! それは見ないからね!」 「下着など……目にも入らない、肉食……」 「ニュアンス違うよ!?」 灯萌のボケに素早くツッコミを入れる惣七。たぶん、周りからは楽しそうなカップルに見えていることだろう。そうこうしているうちに、灯萌はあっという間に服を選んで試着室へ入ってしまう。 「人間、中身が大事……」 「この場面でなきゃすごくいい台詞だけど!」 「ともかく……こんな感じで、どう……?」 シャッと試着室のカーテンの開く音。惣七が振り返ると正統派サンタドレスに身を包んだ灯萌がそこにはいた。白い肌に赤が映えて、結構可愛い。……下着の見えないギリギリまで、スカートをまくっていなければ。 「何でめくってんの!?」 「下着は……見ないと、いう事でした……ので」 「何で『そこまで』めくったのかは聞いてないから!」 いきなりきょとんと、不思議そうな顔をする灯萌。さっきまで早口でまくし立てたことは全部理解していたのに、なぜそこだけ分からないのか……謎である。 「悩殺……」 「されないからね!?」 結局、惣七に促されるままに普通の服を買ってデート続行。 灯萌の『惣七先輩悩殺作戦』はまだまだ続く。少し、ずれた方向に……。
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