●『Sweet Christmas』
「はい、雛子さん。あーん」 「あ、あーん……」 後ろから紅介に、フォークにさしたケーキのかけらを口元に差し出された雛子は、少々恥ずかしがりながらもそれを口にした。 2人が出逢って10ヶ月ほど。まだ一年経ってないことに驚くほどのバカップルぷりは自分達が認めるところだったが、クリスマスを一緒に過ごすのは初めてだった。 今は紅介が雛子の背中に寄り添うように、炬燵に2人前後して入って、一緒にケーキを食べている。というか、紅介が雛子に、後ろから『あーん』と食べさせてあげている。絵に描いたようなバカップルぶりだ。それでも、出会ってから今日まで2人でいろいろと積み重ねてきて……同じ時を過ごし、同じものを見て……今日、このクリスマスもその一つ。2人で積み重ねていく大切な軌跡だから、大切に過ごしたかった。
「はい、もう一度あ〜ん」 「あ〜ん」 照れも薄れて、雛子は差し出されたケーキをぱくっとくわえる。イチゴのたっぷり乗ったケーキは甘くて美味しくて、今自分は好きな人の体温に包まれていて……雛子は幸福感でいっぱいだった。 「ん〜、しあわせ……」 手を頬に当てて、口をモグモグさせながら、思わずそんな声が出る。しかし幸せなのは雛子だけではなく、紅介もだ。愛おしそうに恋人の顔を覗き込んだ紅介は、ふと雛子の頬にクリームがついていることに気がついた。さきほど『あーん』したときについてしまったのだろう。 「雛子さん、ちょっとこっち向いて」 「? なぁに?」 言われたとおりに紅介の方に向いた雛子。その頬に付いたクリームを紅介が舌で舐めとり、ついでとばかりにそのまま頬にキスした。 「あ……」 ぽ、と雛子の頬がイチゴのように赤くなる。そんな雛子を見て、紅介はますます雛子が愛おしくなって、自分の顔と向かい合うように、雛子の顔の向きを変えた。そのまま、2人吸い寄せられるように唇同士重ねて口付ける。
長い口付けの後、2人は見つめあったまま微笑んだ。 「来年も、こうして2人でクリスマス、過ごそうね」 「もちろん、だよ。来年は2人の新しい家で……だね?」 今もこっそり同棲状態だけど、卒業したらちゃんと二人暮らし用の部屋を探す予定。来年も再来年もこうして、2人で大切な時間が過ごせることを祈って、2人は再び口付けを交わした。
| |