矢坂・孔明 & 雛森・イスカ

●『黄昏色に染まる時』

 賑やかなクリスマスパーティー。
 孔明は、そのパーティーに参加していた。
 傍らには、ドレス姿のイスカもいる。
「素敵なドレスだけど、誰のお目立てなの?」
 その孔明の言葉にイスカは、そっと耳打ちする。
「それはですね……」
 その答えに孔明はなるほどと、心の中で呟くのだった。

 他愛の無い雑談。
 確か、パーティーの話から始まり、2009年に起きたことなど、思い出話に至る。
 こんなに話したのはいつ振りだろうか?
 こんなにも楽しいのは、今日がパーティーだからだろう。
 それに、聞き役に徹しているイスカがいたから、楽しく話も続けられたのだと思う。
 いや、もう一つ。
 美味しいスコーンも一役買っていた。
「このスコーンも、美味しいね」
 ぱくっと近くにあったスコーンを手に取り、口の中へ。
「あっ……」
 小さく声を上げるイスカに、孔明は気づくのが遅かった。
 口の中に広がる、激辛の嵐……。
 とはいっても、彼の中では想定内だったのだが。
(「予想はしていたけど、こ、これは……辛い」)
 顔には出ていなかった、と思う。
「あの、大丈夫ですか? それ、私のだったんですが……」
 孔明の食べたのは、イスカの味付けしたスコーンだったのだ。手元をしっかり見ていなかったから、起きてしまったハプニング。
「これくらいは平気。なかなか美味しいね」
 と孔明がお世辞を言ったものだから。
「では、もう一つどうぞ。スコーン、まだありますし」
「あ、ありがとう……」
 もう一度、激辛のスコーンを味わうことになってしまった。
 その分、イスカは上機嫌ではあったが。

 パーティーもそろそろ終わりかけた頃。
「イスカさん、ワルツを一曲、いかがですか?」
「ええ、いいですよ」
 イスカは孔明の申し出に快く応える。
 孔明は嬉しそうな笑みを浮かべて、イスカの手を取り、踊り始める。
 とはいってもダンスに慣れていない孔明。イスカにリードされる形でぎこちないステップを披露することとなった。
 けれど、それは些細な事。
 日が暮れて、ゆっくりと黄昏色に染まっていく会場。
 キャンドルが灯され、淡く暖かい灯りが、目の前のイスカを美しく演出していく。
 孔明の頬が仄かに紅くなっていたのだが、イスカには気づかれない範囲……なはず。
 曲が終わり、二人はゆっくりと足を止める。
「イスカさん……あの、ちょっといいですか?」
「あ、はい。何でしょう?」
 緊張した面持ちで、孔明はそっと用意したものを取り出した。
 それはイスカに渡そうと用意した、綺麗なリボン。
「クリスマスプレゼント、持ってきたんです。受け取ってもらえますか?」
「いいんですか? 私で」
 驚くイスカの髪に孔明はそっと、そのプレゼントのリボンを付けてあげた。
「とっても似合いますよ」
 その孔明の言葉にイスカは、嬉しそうに笑みを浮かべる。
 キャンドルと沈む日の光。
 その色を受けたリボンは、彼女が動くたびにとても美しく揺れていた。



イラストレーター名:緋那姫