●『クリスマス、煌きの舞踏会。意外な二人?』
「御神さんは、クリスマスには何かイベントに参加なさいますか?」 クリスマスも近いある日。梨花は深月に訊ねた。深月は視線を梨花に向けた。 「今回は、真面目に舞踏会に参加しようと思っている」 「あら、そうなのですか」 「たまには普段と違う雰囲気を味わおうと思って」 「どなたか、お相手がいらっしゃるのでしょうか」 「……いや。本当に、雰囲気だけを味わいに行くだけだ。有り体に言えば、気を紛らす為に。俺はそんな浮いた話とは無縁の身だしな」 淡々と話す深月に、梨花は以前の自分を重ねていた。人と接するのが苦手でも、楽しい集まりに出るのは嫌いじゃなくて。それでも、皆と話すことなく隅で、楽しそうな皆を見て楽しんでいた自分……。 「私で良ければ、お相手しましょう。折角参加するのに、一人ではつまらないでしょう?」 梨花は、一歩踏み出すことにした。やはり、一人で見ているだけでは寂しいのだ。自分も皆の中に入っていった方が楽しいだろう。 「……それでは、お願いする」 「はい。楽しい舞踏会になるといいですね」 変わらず淡々と喋る深月に、梨花は笑いかける。深月は、少しだけ微笑んだように見えた。
それから、数日が過ぎて。舞踏会の会場では、皆が楽しそうに踊っている。 「エスコート、よろしくお願いしますね」 「こちらこそ、よろしく頼む」 深月は梨花の手を取り、静かに踊りだす。 「こうして、先輩と踊ることになるとはな……」 深月は、心底不思議そうだった。いつも任務の話ばかりしていた梨花と、こうして舞踏会で踊ることになるとは、思っていなかったのだ。だが……。 (「夢の中にいるような心地だな……」) 悪くはない。そう、思えたのだった。 「私も、こうして舞踏会で踊ることになるとは思っていませんでした」 梨花は、在学中に舞踏会で踊ったことは無かった。そのことをふと思い出し、深月を見つめて、頬が熱くなるのを感じた。そして……胸が高鳴るのを感じて…… (「こんな気持ちは、何年ぶりでしょうか……」) なんだか気恥ずかしくなってしまい、深月から目をそらしてしまっていた。
優美なワルツのリズム。それに乗せて奏でられる、二人の想い。 そうして、舞踏会は回っていく。その先で、この想いはどこに辿りつくのだろう……。
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