灰嶋・柳 & ティアリス・ベルンシュタイン

●『二人きりのHoly Night』

 年に一度のクリスマス。普段なら手が触れ合っただけで照れてしまう柳とティアリスだが、せめて今日くらいはと少しだけ勇気を出した。
 静かに寄り添いあい、星空を眺める二人。初めての近距離に緊張しているのか、ともに頬を染めており、動きもどこかぎこちない。
 柳はティアリスの体をそっと抱きしめる。腕から伝わってくるのは、温もりというやさしさ。
「……寒くないですか、ティアリスさん」
 手を重ねながら問いかければ、ティアリスはふわりと微笑んで。
「柳先輩のおかげで暖かいです。とっても……」
 体を気遣う穏やかな声に応えるように、ティアリスは柳の肩にそっと頭を寄せた。艶やかな長い黒髪が、肩口をさらりとこぼれ落ちる。
「先輩は寒くないですか……?」
「ええ、まったく」
 心配そうなティアリスに、柳はやわらかく微笑んだ。
 貴女のおかげで、とささやけば、ティアリスもよかった、と呟いて、甘えるように柳の胸に顔を埋める。
 先ほどまでのぎこちなさが嘘のようだった。二人の緊張をほぐすのに一役買ったのは、二人が手にしているペアマグカップ。聖夜祝いにとお揃いで買った、大切な宝物だった。
 ティアリスのマグカップには金猫のシルエットが、柳のマグカップには黒猫のシルエットが、それぞれ描かれている。
「Merry Christmas」
 重なる声。互いに顔を見合わせた。
「同じことを思っていたんですね」
「ええ、そうみたいです」
 小さく笑いあってから、かちりとマグカップを合わせて乾杯をする。
 ふと湯気越しに視線をティアリスに移せば、蕩けるような甘い微笑みが返ってきた。
 絡み合う視線も、近い鼓動も、温もりも。その全てが愛おしくて。
「来年もまたこうして、一緒に星を見られたらいいですね」
 はにかむような笑みを浮かべるティアリスに、柳はやさしい微笑みを返しながら、彼女を少しだけ強く抱きしめる。
「私の傍に、いてくださいね」
 幸せな恋人たちを祝福するかのように、紺碧の夜空に一筋の星が流れるのだった。



イラストレーター名:碧川沙奈