全道・善路 & 後月・悠歌

●『寄り添いあう二人』

(「雪でも降りそうな空模様だな」)
 星の見えない夜空を仰ぎながら、善路はそんなことを考えていた。今はデートの帰り道だ。恋人の悠歌と並んで歩いている。
 そうしてぼんやりと宙を見上げている善路の隣で、悠歌は気持ちが沈んでいる己を自覚していた。
(「隣に歩くのが私じゃ、物足りないのかなぁ……」)
 デートは楽しかったけれど、帰路についてから二人、満足な会話もしていない。実は今日のデートは彼にとってつまらなかったのだろうか。そんな不安に心が重たく揺らぐ。
 不安げにちらちらと善路へ視線を投げかけていた悠歌だが、ふとした瞬間に彼と視線が交錯した。悠歌は慌ててぷいっと顔を逸らす。
 そんな彼女の様子を見て、少し意地悪い気持ちがこみ上げてきた善路。
「うりゃ」
 つ、と悠歌の腰に手を伸ばすと、そのまま己の胸に引き寄せた。
「ひゃっ!?」
 恋人からの不意打ちに、思わず悠歌は悲鳴を漏らす。ぼふ、と一瞬で彼女の顔が赤くなる。
(「お、照れとる照れとる」)
 そんな可愛らしい彼女の反応を、善路は面白そうに眺めていた。だが悠歌もただされるがままではない。だってちょっぴり悔しいもの。
 引き寄せられて善路の腕の中にいた悠歌は、彼の体に手を伸ばし、ぎゅむっと思い切り抱き締めた。
「うおっ」
 まさか不意打ちに不意打ちを返されるとは予想だにせず。善路は思わずどきまぎとし、困惑と照れの混じった表情を浮かべた。反撃は大成功だ。悠歌は嬉しくなる。
 そんな戯れのやり取りが二人の笑顔を生んだ。悠歌が先ほどまで抱いていた不安は、もうさらりと掻き消えた。今はただ、ほんのりと温かな気持ちが胸の奥に灯っている。
「ん?」
 視界の隅を白いものが掠めた気がして、善路は天を仰いだ。ひらり、ひらりと舞い落ちる、花びらのような白いそれ。雪だ。雪が降るほどに、今夜は冷え込んでいるらしい。
 でも決して寒くはない。なぜなら自分の傍に、愛しい恋人が寄り添っていてくれてるからだ。ぴとりと接している傍らのぬくもりを、もっと近くに感じたくて。善路は彼女をより自分に引き寄せる。
「また来年も、こうして居られると良いな」
 舞い散る雪を見上げながら、善路は優しくぽつりと呟いた。
「うん、ずっとこうして居られたら良いねっ」
 悠歌は顔をほころばせて、こくりと頷いた。彼の体に、己の身を愛しげにすり寄せる。
 雪が、通い合った二人の心を祝福してくれているような。そんな気がする。善路と悠歌は身を寄せ合ったまま、しばしその白い祝福に見惚れていた。



イラストレーター名:緒方裕梨