●『住まうは宵闇の聖夜に現るささやかなる幸福』
――広がるのは静かな闇。 暗がりの部屋の中、音を立てないようにミディラはそっと足を運ぶ。灯はないが、その足に迷いはない。 ミディラの緑の瞳には、闇であっても部屋の様子がきちんと把握できている。 更けた夜の空気はひやりとしていた。ミディラが動くたびに空気がゆるりと動く。 けれど……この部屋の気配を乱さぬように、静かな夜を騒がしくしないように、細心の注意を払った。 空気を乱して相手が目覚めてしまえば、計画は無意味になってしまう。 ミディラが向かうのは、この部屋の主の元。 今は安らかに眠っている少女……ミディラの主であるフィーナ。 まだ幼いと言えるが、貴種ヴァンパイアの美しさが見てとれる美少女だ。 ……まだまだ小さいが。そう言うと彼女の気を損ねてしまうが。 ミディラはおやつを抜いたりお小遣いを下げたりしているが……尊敬しているのだ。主を、誰よりも大切に思っているのだ。 今も繰り返される単調な呼吸。長いまつげに縁取られた瞳は閉じられている。そのことをわかってはいたが、ミディラはフィーナの様子に全神経を集中させた。 フィーナはミディラに気付く様子はない。寝息は今も、健やかなものだ。 細く、息を吐いた。 別段見る人はいないのだが、ミディラはサンタのコスチュームを身にまとっている。 サンタらしく、ミディラは用意したプレゼントを手にしたまま、こっそりとフィーナを見つめる。フィーナは幸せそうな寝顔をしていた。 幸せそうな主の顔を見て、ミディラは意識せず口元に笑みを刻む。 贈り物を、主へ。 大切なフィーナへ、心をこめたプレゼントを。 (「フィーナ様が喜んでくださるといいのだけれど……」) 祈るように、ミディラは一度贈り物を額に当てた。 フィーナの銀色にも見える透き通るような白い髪が枕に広がっている。 そんな彼女の頭の傍……枕元に、用意したプレゼントの箱を置いた。 闇は濃くなり、聖なる夜は更に更けていく。 (「……メリークリスマス」) ミディラは心の中だけで呟いた。
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