●『暖かなクリスマスを 〜「血と温もりの在処」にて〜』
カランカランカラン。 ドアの開く音に気付いたルシアは顔を上げると、来客を歓迎する為の笑顔を浮かべた。 「いらっしゃいま……あら、ブリギッタさん」 「こんばんは。いいですか?」 「勿論です」 そこにいたのは既知のブリギッタだ。ルシアは表情を友に向けるそれへ変えると、ブリギッタをカウンターの席へと案内する。 ティーセットの注文を受けると、お湯を沸かして茶葉とカップの用意をして。それからティースタンドに、とっておきのクロワッサンとスコーンとケーキを積み上げていく。 「お待たせしました」 「こ、こんなにですか!?」 これでもかと、しかし見栄えを損なわぬように気を遣って盛り付けられた品々に、ブリギッタが目を丸くする。 「私からのサービスです。ちょっとだけ」 「これで、ちょっとですか……」 ともあれ有難い事だと律儀に姿勢を正して礼を言うブリギッタに、やわらかく微笑んでルシアはたっぷりのミルクを添えたアッサムティーを出す。 「いい香りです……」 ブリギッタがカップから湧き上がるそれを楽しんでいる間に、ルシアは手早く片付けをするとエプロンを外して、ちょっとだけ、とブリギッタの隣へ座る。 今、お客さんはブリギッタだけ。このくらいは大丈夫だろう。 「あら? ブリギッタさん、窓の外」 「わあ、雪ですね!」 とうとう降ってきましたか、とブリギッタが目を細める。外はずいぶんと寒かったらしい。天気予報でも降るかもしれないとは言っていたけれど……ちょうど、このタイミングで降ってくるとは。 「鎌倉だと、すぐに溶けてしまうでしょうけど」 「何日も積もったりしませんよね。少し山の方へ行くと真っ白になったりするのに」 スキー場とか凄いですよね、と口にするブリギッタ。そこからなんとなく、互いのウィンタースポーツの経験を語り合ったり、それにちなんで冬休みの予定を口にしたりと、何気ない話題に花を咲かせる。 楽しい話題は、お茶をより美味しくさせてくれて。語らい合ううちに時間はあっという間に過ぎて、カップの紅茶も尽きていく。 「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」 「いえいえ」 にっこり笑って立ち上がるブリギッタに、ルシアは笑みを返す。 ――店に入ってきた時、ちょっと疲れているように見えたから少し心配だったけれど……今はもう、すっかりそんな様子は無い。元気をここで取り戻してくれたのなら良かったと、ルシアはホッと胸を撫で下ろす。 「では、失礼しますね。ありがとうございました!」 元気良く告げて扉を押し開けるブリギッタ。カランカランカランとドアが鳴って……その余韻を残しつつ、バタンとそれは閉ざされる。 「…………さあ、片付けましょうか」 去る背中を見送るルシアの胸には少しだけ寂しさが去来するけれど……すぐに、軽く首を振って。気持ちを切り替えてルシアは再びマスターの仕事に戻る。 ブリギッタとならまたいつだって、すぐに会えるのだから。
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