トリスタン・メイフィールド & 天宮・伽耶

●『 Christmas Waltz 』

「伽耶さん、他の場所へ行きませんか?」
 トリスタンは、すっと手のひらを差し出した。
 ダンスパーティに誘われたからと会場を訪れたものの伽耶がパーティーでの人だかりに戸惑ったのだ。
 そんな伽耶の様子を見かね、トリスタンは彼女を他の場所へ連れ出す事にしたのだ。どこか、誰もいない場所へと。
「あ……暖かい、です。トリスと一緒に居られる、と……」
 学園を抜け出し、一息ついてから伽耶の視線は自ずとトリスタンへ向けられ、二人は向かい合う。
 今こうして二人きりで居る間も、華やかなメイン会場には軽やかなステップでダンスを踊る生徒達が賑やかに過ごしているのだろう。
「伽耶さんがそう言ってくださるのなら、私も、とても暖かいです」
 静かに微笑むトリスタン。彼の笑顔に、伽耶の頬は火でも灯したかのように熱くなった。
 こうして誰かと時を共有することだけでも、伽耶にとっては奇跡のようなものなのだ。幼い頃から自らの力が他人を傷つけるとさげすまれ、孤独の中で生きてきた自分にとって、トリスタンは淡く心に灯る月のような存在だ。
「トリス……あの……あ、クリスマスソング」
 彼の凛々しく光る青い瞳を見つめた伽耶は、恋の言葉を口にしようとして、周囲から聞こえ始めた小さなクリスマスソングに気付き、辺りを見渡した。
 周辺には自分とトリスタンしかおらず、一際大きく天へ向いているクリスマスツリーが今、飾り付けられた灯火をきらめかせる。
「伽耶さん、踊って頂けますか?」
 輝くツリーに、伽耶が瞳を向けているとトリスタンがこちらへ、空いた方の手を差し出した。
「もちろん、です……」
 手を取って、以前の自分であれば他人を気にするあまり苦手にすら感じた微笑みを浮かべて、幸せを表現する。
 取り合った手のひらは暖かく、人に触れることに恐怖する伽耶を幸せにしてくれた。
 こんなにも暖かい他人の手のひらを、今までの自分は知らないのだ。
 クリスマスという特別な日に伽耶へ贈られたプレゼント、それはトリスタンとのこの時間なのかもしれない。
 触れ合った手と、学園では踊れなかったダンスのステップを踏む為に、二人は歩み寄る。
 その中で膨らむ期待は、確かに二人が同時に願うべきものだろう。
「来年も、再来年も……」
 トリスタンに抱き寄せられ、温もりに触れて、伽耶は祈るように口にする。
「いつまでも、二人で」
 祈りの続きを口にするトリスタンと共に、二人は光の中を踊るのであった。



イラストレーター名:蒼夜冬騎