●『運命に赤い糸』
「いらっしゃいませ〜」 サービス業に休日はない。祝日もない。……クリスマスも、ない。携帯電話販売店の女性店員は来客に接客笑顔を張り付け、言った。 今来店したのは細身で黒髪、赤い瞳の女の子と色白な肌で金髪、青い瞳の女性の二人組だ。 「無くても会えばいい? でも、あなたの声がすぐ聞きたい時があるの♪ クリスマスプレゼントに、ね」 金髪の女性はそう言ってニッコリと笑っていた。
「ともの、これはどう?」 黒髪の女の子……とものに金髪の女性……ヴァナディースが穏やかに尋ねる。 「色が嫌い!」 妙にきっぱりと、とものは応じた。「あらあら」と別段怒ることもなくヴァナディースは次の機種を示す。 「かわいくない!」 ぷいっとそっぽを向くとものに、ヴァナディースはやはり「まぁまぁ」と穏やかに応じた。 視界に映るそんな二人の様子を、女性店員は見るともなく眺める。 見たところ、ヴァナディースはともののために携帯電話を選んでいるようだ。 「何かさっきのよりボタンが多い!」 正直ワガママとも思えるとものの反応にヴァナディースはにこにことしているだけで、全く苛立つ様子は見られない。 (「仲がいいわねー」) 女性店員はそんな、ある種呑気なことを思う。 とものとヴァナディース以外にも客がいて、それは男女のカップルで……。 (「ちっ」) 内心、舌打ちをした。クリスマスのせいか、心が荒む。 「これは?」 ヴァナディースは赤い携帯電話をとものに差し出した。その瞬間、とものの目が輝く。 「赤は私のしんぼるからー!」 気に入ったようで、見るからに喜んでいた。 カップルからとものの様子に視線を移し、女性店員は笑う。それは接客用の作り笑いではなく、本心から微笑ましく思ったからだった。 「これを、お願いします」 使うのはとものらしいが、手続き等はヴァナディースがやるらしい。うきうきと赤い携帯電話を掲げるとものを後ろ目に、ヴァナディースは着々と契約を進める。 「料金プランはどうなさいますか?」 女性店員は様々な料金形態を見せつつ、問いかけた。 にっこりと、ヴァナディースは微笑む。 「恋人プランで♪」 「な、なななな何でそれ!?」 真っ赤になって驚くとものに「うふふ」とヴァナディースは振り返る。 「私たちは、恋人同士でしょう? これは、私とあなたとの赤い糸の代わり♪ 壊したら許さないんだから♪」 女性店員の前にも関わらず思いっきりのろけて見せた。 クリスマスなのに仕事中の独身な女性店員は、表情に出さないように苦労しつつ、ふっと息を吐く。 (「……この、ばかっぷるめ!!」) 美女と照れる美少女のお客に『女同士で!』とか思う前に嫉妬が先立った。
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