●『ほしのひかりとやみのうた』
ヤドリギの下に、柚兎と菜種は立っていた。 銀誓館学園のクリスマスパーティ。たくさんの生徒が集い、談笑している。戦いのことを忘れ、心からくつろげるひとときだ。 こうして菜種と一緒に過ごすクリスマスは、今年で二回目。光陰矢のごとしの言葉通り、あっという間の一年だった。柚兎はヤドリギを見上げながら、この一年を回想する。 楽しいこともあったが、辛いこともあった。迷いや悩みを抱えることもあった。 しかし、今になってわかる。全ては必要なことであり、全ては自分達の軌跡なのだ。苦しみがあるから幸せがある。それらを乗り越え、こうして今、菜種とここにいる。 柚兎は、ポケットから闇色の古ぼけた口風琴を取りだした。繋いだ手の先を見れば、菜種も空いた方の右手に純白の口風琴を握っている。 目が合うと、菜種は柔らかく微笑んだ。 「同じこと考えとうね、私達」 「……あぁ」 柚兎は頷き、笑う。まるで以心伝心。きっとこのヤドリギの下で、二人は同じことを考えている。 菜種と、想いも空間も共有していられる。そのことが、柚兎には嬉しかった。
ヤドリギの下、二色の口風琴の音が響いた。 全てを包み込む夜のように安らぐ、闇色の口風琴の音色と、そよ風のように優しい、白色の口風琴の音色。 二つの音色が、菜種の綴った『ほしのひかりとやみのうた』を歌い上げる。 光なくして闇はなく、闇なくして光はないように、この二つの口風琴は単独では存在し得なかった。 菜種がいて柚兎がいる。柚兎がいて菜種がいる。 ありったけの想いをこめて、柚兎は口風琴を演奏した。 繋いだ手から、想いが伝わる様に。 想いをこめた旋律は、想いを届ける。 (「……この幸せを」) 手と手を繋ぐ幸せと、想いが届く幸せ。噛みしめながら、柚兎は祈るように口風琴を吹く。 (「この世界に伝えたい」) きっと、その手段は限られている。しかし、二つの口風琴が奏でるこのハーモニーは、それを世界に伝えることが出来る。 音色に乗って、広がる想い。 (「光と闇の旋律に乗って」) ヤドリギを越え、遥か空へ―――。 (「彼方までも響き渡れ!」)
演奏を終えると、菜種は笑顔を浮かべて柚兎を見上げた。 「メリークリスマス」 柚兎だけに届く、小さな声で言う。繋いだ手にぎゅっと力を込め、柚兎は微笑んだ。
| |