●『聖夜のプロムナード』
色とりどりのイルミネーションがキラキラと輝く道を、二人で歩く。 まるで宝石をちりばめたかのようなその光景に、猛臣のわずかに後ろを歩く江莉子がほぅ、とため息を吐いた。 「イルミネーション、綺麗ですねー」 そんな彼女の言葉に、このデートに誘った本人である猛臣は、少しだけ緊張してるかのようだった。行きかう人々の波から彼女を守るために、エスコートに力が入る。 「あっ、江莉子、足元にも気をつけろ……ふんぎゃっ!」 「猛臣さんっ! 大丈夫ですかー!?」 江莉子が転んでしまわないように気遣いの言葉を投げかけているところに、彼自身が何かにつまづいて、その場で転んでしまった。 それでも地面に沈む寸前には、繋いでいた手を離して彼女を巻き込む事だけは避けられたようだ。 驚きの表情の江莉子に対して、猛臣はほこりを掃いつつ立ち上がり、 「大丈夫だ、問題ない」 と、キラリと口の端を輝かせてそう告げた。 そんな二人の頭上では、チラチラと雪が降り始めた。 それを見上げて、猛臣も江莉子も表情を和らげる。 「あっ、雪が降ってきましたよー? ふふふっ、素敵ですねー」 「お、雪! ホワイトクリスマスってやつか!」 互いにそんな言葉を交わして、再び自然と手を握り合う。 「…………」 降り続ける雪を見上げつつ、猛臣は自分の野望を思い出し、頬を染めた。 (「今日こそ、江莉子に……ちゅーするんだ」) 心の中でそう呟くと、余計に緊張してしまい、さらに頬が熱くなる。 「猛臣さんー? ど、どうしましたー?」 耳まで赤く染まっている猛臣の姿を見て、江莉子は慌ててそう声を掛けた。 すると猛臣はちらり、と彼女へ視線を落とし、真っ赤になりながらも行動へと移る。 「……っ!?」 江莉子の額に触れる、温かい感触。 その感触と彼の行動に、江莉子は目を見開いた。そして直後、頬をピンク色に染める。 最初は口に、と思っていたが、照れと緊張でそれには至らなかった。だが、初めて触れる彼女の感触は、猛臣の中での大きな一歩だ。 「……猛臣さん、ちょっと後ろ向いてもらえますかー」 頬をピンク色に染めたままの江莉子が、小さくそう言ってきた。 猛臣は首をかしげながらも、そんな彼女の言うとおりにくるりと背を向けた。 直後、ぽすん、と背中に感じる柔らかな衝撃に、彼は驚きを見せる。 「!」 「メリークリスマス、ですよー。猛臣さん、大好きですよー」 きゅ、と猛臣を背中から抱きしめた江莉子が、そっと告げる優しい言葉。 自分だけに向けられた響きを受け止めて、猛臣の表情がゆるむ。そして彼は、すぅ、と息を吸い込んでから、返事をした。 「これからもずーっと一緒だぞ、江莉子!」 彼のそんな言葉に、江莉子は嬉しそうにほほえみながらこくりとうなづく。 キラキラと、二人を包むようにきらめくイルミネーション。 溢れるような光の中で、猛臣と江莉子は二人だけの幸福な時間をゆっくりと過ごすのだった。
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