●『変わっていくカタチ、変わらない約束』
一歩一歩踏み出すごとに、さくさくと雪を踏みしめる音が静かに聞こえる。
夜ということもあって、この森に訪れる人もそう居ないのだろう。まっさらな白い絨毯に、二人分の足跡が刻まれていく。
「寒くないか？」
白い息を吐きながら、イグニスは隣を歩くルシアに声をかけ、そっと手を繋いだ。
「ありがとうございます」
少し驚いたものの、ふふ、と微笑んで、ルシアもそっと手を握り返した。
二年前、モミの苗に約束を預けるというイベントがあり、ルシアとイグニスは苗を植え、そしてその時に二人は恋人同士となった。小さかったモミの苗がどうなったか気になって、今、二人は思い出の場所を目指し、夜の森を歩いているのだ。
あの時はお互いが緊張して、ろくに会話も出来なかったが、今はこうして二人手をつないで、会話をしながら歩いている。隣りにいる事が自然である、というのは幸せなことだ。その幸せを互いに噛み締めながら、思い出話に花を咲かせる。
「確か、この辺りじゃなかったか？」
「ヤドリギの生えた倒木の近くですよね」
「そう、ヤドリギ。懐かしいな」
「あ、あれじゃないですか？」
ルシアが指差す方には、確かにヤドリギの生えた倒木があった。少し急ぎ足になりながらも、二人はそこへ近寄る。
「これ、か？」
「うわぁ……！ 大きいですね」
記憶にある小さな苗木は、いまや二メートルほどに成長していた。そんなに背が高くないルシアにとっては、見上げなければ全貌が見えない成長っぷりだ。
「一番でかいんじゃないか？ もしかして」
ここに来るまでに他の参加者が植えたモミの木もあったが、自分達の植えたモミの木が一番大きく育っているような気がしてしまう。ぽつりとイグニスが呟くと、ルシアもそんな気がします、と微笑んだ。
真っ直ぐ天に向かって育つモミの木は、イグニスの預けた、折れる事も枯れる事もない誓いをしっかりと護って成長しているように思える。このモミの木は、二人にとって誓いの象徴だ。
ヤドリギをまとわらせた倒木は、年月が経てば朽ちていくだろう。だが、隣りに植えた苗木はすくすくと育っていく。託した誓いは、あと九十八年、変らずここにある。だからきっと、このモミの木の前でした約束も、変わらない。
「ルシア」
「はい、なんですか？」
「ずっと、一緒だからな」
イグニスの言葉にルシアは勿論、と深く頷いた。
「私は、イグニスさんと共に生きることを誓います」
あの時と同じように、同じ約束をもう一度、モミの木に誓う。
それに答えるように、モミの葉が風にゆられて、さわさわと優しい音をたてた。
| |
＆ ルシア・バークリー
