●『俺様がサンタクロースッ』
クリスマスといえばもみの木にケーキ。そしてサンタクロース。 今年も全国のお父さん、あるいはパーティーの余興に興ずる人々が、赤い衣装と白ヒゲを身にまとう。 とある民家の前にもそんな青年が立っていた。 だが、彼は現状に不満を抱いているようで……。 「っつーか、何故に俺様がこんな格好を……?」 相棒にリクエストされたものの、納得がいかず首を捻る虎信。 見た目はそれっぽい年齢とも見えるが、それはそれとして! などと考え込むこと数十分。 「まァ良い、普段は割と互いに忙しいゆえな! クリスマスだからどうと言うモノでもないが……大サービスと言うヤツだ! 俺様は悪者だが、たまには良かろう!」 こうして無理矢理自分を納得させた虎信は、ようやくドアノブに手を伸ばしたのだった。
一方、リクエストした張本人である悠衣はパーティーの準備を終え、虎信を待っていた。 「早く見たいなーどんなかなー? ……小さな子供が見たら軽く泣き出しそうな感じかも」 想像して思わず笑いが込み上げたその時、聞きなれた声が玄関から響いてきた。 「アレか、例の台詞だな、えー……メッルィィー・クルィスマスンヌァー!!」 「あ、メリークリスマス……」 何かいろいろ間違っている挨拶には動じなかった悠衣だが、虎信の姿を見て動きが止まる。 ――サンタの格好をしたガテン系兄ちゃんが仁王立ち――。 今度は笑いが込み上げる程度ではすまなかった。 「……ぷっ。に、似合ってない……壮絶に似合ってません虎信さん……!」 「……おいィ!? お前は何故に大爆笑なのか!?」 「駄目だツボに入っちゃった……あはははは!」 「そこはお前、恥を忍んでやった俺様に全力で感謝するとかだな!? ええい、笑うなー!死にたくなければ笑うなーッ!!」 猛烈な勢いで抗議する虎信だが、悠衣はますますお腹を抱えて笑い転げるのだった。
「あはは……いや、ごめんなさい……予想以上に面白かったから……けど、いいクリスマスプレゼントです、はい」 「ふんっ、ではこちらはいらんな?」 「嘘です嘘です! ごめんなさい!」 肩に担いだ袋を指され慌てて謝る悠衣を見て、虎信は溜飲を下げた。 「冗談だ。ったく、ほれ、料理が冷める前に食ってしまうぞ!」 ひとまずプレゼントは後回しにして、料理に舌鼓を打ちはじめる二人。 (「今年も一年ご苦労様でした、本当に。なんてクリスマスにする会話じゃないかな」) 他愛ない会話をしながら、悠衣がそんなことを考えた矢先。 「……まァアレだ、今年も一年ご苦労だったな!」 照れ隠しなのか少しぶっきらぼうに言う虎信。 驚いた悠衣の表情はすぐに緩んでった。 同じことを考えていたなんて。と、なんだか嬉しくてくすぐったい気持ちになる。 (「メリークリスマス。二人きりのクリスマスなんですから、思いっきり甘えちゃってもいいですよね」) そっと心の中で呟いて、悠衣はとびきりの笑顔で頷いた。
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