●『たまには恋仲らしく Vol.03 〜ココア(加糖)〜』
深々と雪が降る12月、外は勿論、とても冷える。さくさくと音を立てる雪を踏みしめながら、カイルは家路を急ぐ。目指すのは、明るい『我が家』。電車を降り、信号を渡りあの角を曲がって……なんだか、近づけば近づくほどに待ち遠しく感じてしまう。意識が、足がはやる。やっとたどり着いた扉の前。はやる気持ちをやっとの気持ちで抑えて、呼び鈴を鳴らす。 「へーい……おう、カイルか。お帰り」 それほど間を空けずに、がちゃりと扉が開いた。その向こうには、人懐っこい笑みを浮かべた荒十朗が、彼女を出迎える。抑えたはずの鼓動がまた高鳴った。 「ただいま」 それだけ答えて、ふっと白い息が流れ出す。顔を見たら、安心して、体から力が抜けた。 「寒ぃから中入れ」 荒十朗は、抱きかかえるような格好で彼女を部屋の中に引き込む。空気の層が変わり、暖かい空気が彼女の疲労を和らげた。こんな日まで、ずっとずっと仕事で働きづめだったせいで、流石のカイルも疲れていたのだ。 男性にしてはこざっぱりと綺麗に整えられた室内をぐるりと見回す。しばらく、ぼうっと何事もなく眺めた後、すとんとクッションの上に座り込んだ。 「あったかい……」 ぽうっと呆けたような顔で虚空を見上げるカイル。不意に、とんとんと肩を叩かれた。見上げれば、荒十朗が大きめのマグカップを、コトリとコタツ机の上に置いたところ。 「疲れた時は甘いものだろ」 こたつにもぐりこみながら、カイルに微笑みかける。そして何かをふと思いついたらしい。こたつに入ったまま、クッションの上のカイルを手招きした。 「カイル、ちょい、こっち」 カイルは首を傾げてから、四つんばいで近づくと……荒十朗はこたつの前であぐらをかいて、彼女の軽い体をひょいと持ち上げて、その上に乗せた。 「ちょ、コウ……!」 丁度こたつと荒十朗の間にカイルが入るような位置になると、差し詰め人間座椅子のような格好になる。少しだけ落ち着かない様子のカイル。彼の膝の上で、もぞもぞとお尻を動かしていた。 「落ち着かないか?」 背後から、いや頭の上から、彼の問いかけが落ちてくる。少し考えた後、彼女はふるふると首を振った。 「……このままで、いい」 そして、荒十朗の入れてくれたココアを一口。甘くて優しくて、疲れも全部吹き飛んでいきそうな味。丁度……今後ろにいる、彼の温もりのような。 「そっか」 カイルはそれだけ告げてまた一口。心も体も温まっていく。そして二人は静かな聖夜を過ごす。心安らかに。
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