●『Christmas Escape』
鮮やかなドレス、楽しそうな笑い声、綺麗なクリスマス飾り。 沢山の生徒達が楽しむ賑やかなクリスマスパーティー会場で、ほのりは一緒に来たはずの恋人の姿を探していた。 (「和真、どこ行っちゃったんでしょ〜……」) すれ違う友人に笑顔を作って挨拶するも、その表情はすぐに焦りの色に覆われてしまう。いつも一緒に居る恋人と数刻離れただけでこんなにも物足りないと感じるとは。きょろきょろと周囲を見渡すほのりの足取りは、いつしか早歩きになっていた。焦燥感は次第に悪い予感となり、不安で堪らなくなっている。 一通り会場を探してみたが、どうしても見つける事が出来ない。ほのりは肩を落とし、会場の隅の窓際へと歩いていった。鮮やかなドレスのひらめきも、弾ける笑い声も、手を伸ばせば届く距離なのに遠くに感じる。まるで華やかな世界から一人、隔絶されてしまったかのように。 俯いたほのりの瞳が少し、潤み掛けたその時。 「のり……」 はっとして顔を上げるほのり。 「ほのり……」 幻聴ではない。間違いなく自分を呼ぶ声。愛しいあの人の、声。窓の外から聞こえる声に気づいたほのりは、勢いよく窓を開ける。 「和真?」 窓の外に居た恋人の姿を確認し、思わず驚きの声を上げてしまうほのり。和真は少し微笑みながら人差し指を口に当て、周囲の様子を伺いながら、 「しっ! ほら、すごい人だし。知り合いに捕まると長いしさ」 とほのりに簡潔に思惑を伝える。 会場の外と中。それでも、逢いたかった人の顔に安心する。まだ少し混乱しているが、不安から解放された気持ちの方が大きいほのりは破顔して和真を見つめた。遠くに感じた近くの華やかな世界よりも、闇に紛れて自分を探しに来てくれた恋人の居る外の世界の方が自分の居場所のように思える。 そんなほのりを和真はいたずらっぽい笑みで見つめて言う。 「ほのり、逃げようか?」 「へ?」 一瞬何を言われているかよくわからずにいるほのりの返事も待たず、外から窓の縁に登ってほのりの手を取り、その体を引き寄せる。 「……くす♪ 和真と一緒なら」 きょとんとした顔を笑顔に変えて、和真に身を任せるほのり。 「うん、攫わせてもらいますよ」 などと、わざと気障な台詞を言う和真。言うが早く、和真はほのりを抱えて窓から飛び降りる。 ふわりと着地する和真。着地に備えて和真にしがみつくほのり。踊るほのりの赤い髪。それはまるで映画のワンシーンのように。 まだまだ2人のクリスマスは始まったばかり。かけがえの無い時間、2人だけの物語が、また新たに綴られていく。
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