●『聖夜の誓い』
かつて、消えるべき運命にあった彼は、少女と出会いその定めを覆した。 彼は少女と共にありたいと望み、その思いを告げた。 そして、二人は赤い組紐を互いの手に結んだ。 「折角だし、これから皆のところへ顔出しするか」 赤い組紐を揺らしながらルシアは御凛へと語りかけた。 「え……? ちょっと、何考えてるのよ」 御凛は一瞬、ぴたりと動きを止めた後、火照ったように顔を赤らめながら早口に問い返す。 「見せびらかす」 だが、彼女の様子とは対照的にルシアは平然と言った。 「ば、バカかあんたはっ!?」 御凛は思わず声を張り上げてツッコミを入れ、いつもの癖で照れ隠しのパンチを放つ。 彼女が真っ直ぐに繰り出した拳は、長身のルシアの丁度肩口辺りに命中するが、それすらも彼にとっては心地良い。思わず笑みがこぼれ、自然と笑い声が溢れてくる。 「な、なに笑ってるのよ……」 少しばかり憮然として御凛はルシアへと問いかける。 「こういう雰囲気が好きなんだよ。敢えて馬鹿な事言いたくなるんだ」 相変わらず笑みを浮かべながら御凛の瞳を真っ直ぐに見つめて、ルシアは答えた。 ルシアの気持ちは御凛にも伝わっている。だが、乙女心は繊細だ。彼の気持ちは決して嫌ではないが、ため息をつきたくなる理由もあった。 「はぁ、折角二人っきりなんだからもっと気の利いたこと言えばいいのに……」 囁くような声で愚痴が出る。今日は十二月二十四日――彼女たちのように互いに想い合う相手と過ごすことにおいて特別な意味を持つ、年に一度の日なのだ。 「好きだ。一年は言わないからな」 聞き間違えようもなくはっきりと言うと、ルシアは御凛をそっと抱きしめる。 「……もっと言ってくれてもいいじゃない……」 嬉しくてしかたないのに、ついつい御凛は口を尖らせてしまう。 「そう言う御凛はオレの事どう思ってるんだよ」 問われて御凛は、頬だけではなく耳元まで真っ赤に染めながら、一気にまくし立てる。 「最初は唯の変態だと思ったし、半ば脅迫的に迫ってくるし、とんでもないのと知り合っちゃったなぁと思ったけど……き、嫌いじゃないわよ」 ルシアは彼女が最後まで言い終えるのを待ってから、そっと微笑んだ。 「なら僥倖。オレにとっては御凛は何より大切で、生涯を賭けて共にありたいと思ってるのはお前だけだ」 恥ずかしさで御凛は思わず目を逸らしながら早口に言う。 「……そ、そんなに一緒に居たければ勝手にいればいいじゃない……」 目を逸らした御凛と再び目を合わせて、ルシアは言う。 「了承ととって良いんだな?」 答える御凛の声は、恥ずかしさが極まって、尻すぼみだ。 「す、好きにしなさいよ……」 御凛は真っ赤になりながら目をつむる。そして、それが何を意味するか理解できないルシアではない。 「愛してる」 静かな聖夜に彼の囁きが響き渡り、二人の唇がそっと合わさる。 これから待つのが、二人が共にいられる日々であらんことを。
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