●『雪振る聖夜の一幕〜喧騒を離れて〜』
今年もやって来た冬の一大イベント、クリスマス。 気が置けない親しい友人たちとクリスマスパーティーを満喫し、一人また一人と解散した後も、魎夜と琴乃は他愛のないおしゃべりをして一緒に時間を過ごしていた。 大勢でわいわいと騒ぐのも楽しいが、二人きりで過ごすのもまた違った楽しさがある。 初めての高校生活、もうじき終わる今年一年のできごと、日常生活とゴーストとの戦いの日々……話題が尽きることはない。 その時、視界の端を何かがよぎり、琴乃は円状の窓から空を見上げた。 「まあ……魎夜様、ご覧下さいな」 「おっ、雪か!」 オレンジ色の瞳を輝かせ、魎夜は食い入るように外を見つめた。 始めはほんのひとひら、ふたひら。 やがて絶え間なく降り注ぎはじめた純白の雪が、二人の瞳を和ませる。 「ホワイト・クリスマスだな」 「ええ、綺麗ですわね……」 寄り添いながらしばし見とれる少年と少女。 ときおり雲の間から差し込む月明かりを受けて、淡く輝く様は本当に美しかった。
ふと、琴乃は自分の肩にあたたかな重みを感じた。 「どうかなさいまし……あらあら」 うとうとと舟をこぐ姿に、思わずくすりと笑みがこぼれた。 「魎夜様、無理なさらず少しお休みくださいまし」 「え、でも……いいのか?」 「もちろんですわ。どうぞ遠慮なさらず」 「ふぁ……悪い、そうする……」 「膝をお貸ししましょうか?」 「んー……ありがとな……」 本格的に眠くなってきたのだろう。あくび混じりに礼を言って、魎夜はもぞもぞと琴乃の膝の上に頭を乗せる。ほどなくして、静かな寝息が室内に響きだした。 「お疲れでしたのね、魎夜様……」 呟く琴乃の表情にはかすかな憂いが見え隠れしている。 年に一度のイベントということもあって、パーティーでは友人たちと食べたり飲んだりはしゃいだりと大忙しだった。その疲れもあるだろう。 だがこれは普段の戦いによる疲労が大きいのではないかと、琴乃はほんの少し不安を感じていたのだ。 けれど。 「んー……琴乃……」 魎夜の口から寝息と一緒に寝言がもれる。その表情はこの上なく幸せそうで。 そんな彼の寝顔に、琴乃の不安は緩やかに溶けてゆき、つられて幸せな気持ちになる。 この穏やかな時間こそが、彼女にとって最高のクリスマス・プレゼントだった。
少しだけ顔を近づけて、そっとささやく。 「膝ならいつでもお貸ししますわ。ですから、早く元気になってくださいませね」 少しでも魎夜様が、安らかに過ごせますように――。 降り積もる雪と優しい祈りに包まれて、聖夜は静かに過ぎていった。
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