綾上・千早 & 奈那生・登真

●『Holy Night Interval.〜受験戦士の休息〜』

 12月24日……街は煌煌とライトアップされ、クリスマスに沸く。だが、高校3年生となると事情は少し違ってくる。目の前には受験の二文字が迫っているのだ。千早はコタツの卓上に突っ伏して弱弱しい声を上げる。
「……へへっ……燃え尽きたぜよ、真っ白にー……」
 ずっと卓上で受験と言う壁に挑んできたこの数時間は、座ったままで体力を消耗するようなものではないのだが、千早に取っては何ラウンドもリングで戦ったに等しいらしい。
「なら燃料追加だ。国語と英語と地歴は終わり、次は理系で気分転換でもしろ」
 登真が追加の教材・参考書を千早に押し遣る。目の前の現実は非情である。この現実を前に、千早は身体を震わせ、怒りに拳を握り締めて憤慨する。
「だー、世間はクリスマスなのにー! 苦しみますは外・クリスマスは内ー!!」
 大声を張り上げる千早を見て嘆息する登真。
「節分にはまだ早い……分かった、望みの物を出してやるから騒ぐな」
 今は12月だ。もちろん、冷蔵庫から出てくるのは豆でも恵方巻きでもない。小さいながらも、ホールのクリスマスケーキ。『Merry Christmas』ならぬ『合格』の文字が入っているのはらしい気遣いと言えるだろうか。ケーキが切り分けられていく様子を見て色めき立ち、暖かく良い香りの紅茶とセットで目の前に出された時に、これぞクリスマス、と言わんばかりにぐっとガッツポーズする千早。
「いよっしゃあ!! ビバ・クリスマス、ありがとうクリスマスケーキ!」
 自分の分のお茶を淹れながら、登真は千早の一時の天国を地獄に突き落とす一言を口に出す。
「食べたら数学な」
 再び、まるで風船人形の空気が抜けるように潰れて突っ伏す千早。
「……あ、アバヨとっつぁーん……」
「誰がとっつぁんだ」
 本当は怪盗のように颯爽と逃げ出したいのだろうが、逃げるに逃げられない。
 ふう、と再び嘆息する登真。そんな内に過ぎ行く二人の聖夜。それらしいクリスマスは、来年に持ち越しだ。



イラストレーター名:笹井サキ