●『〜We live both forever with love of infinity〜』
様々に模られたイルミネーションが、夜の街を彩る。 人々も然り、普段よりも華やかな装いで身を包み、楽しく繰り返される会話は街を一層賑やかにしている。 その雑踏の中に、櫻霞と桜の姿があった。 「素敵ですわ、まるで別世界ですわね、櫻霞様」 金色の髪を靡かせ、赤い大きな瞳を潤ませて、桜は櫻霞を振り返る。 「ああ、そうだな」 自分の傍で心を弾ませる桜に、櫻霞は柔らかな表情で答えた。 二人で迎える初めてのクリスマスである。 普段感情を表に出さない櫻霞ではあるが、桜の前では優しい瞳を向ける。 その時だった。突如、後方より奇声を発しながら、浮かれた若者達が人ごみを掻き分けて二人の横をすり抜けていく。 「桜ッ!」 はしゃぐ若者達に当たりそうになった桜の肩を掴み、櫻霞は瞬時に自分に引き寄せた。 バタバタと数人が通り過ぎた後、少し震えている桜を櫻霞は覗き込んだ。 「大丈夫か?」 「は、はい……、大丈夫ですわ」 頬を紅潮させ、桜は俯いた。 温もりを感じるほどの櫻霞との距離に、桜は動揺しているのだ。 「あ、ありがとうございます……」 動揺を隠そうと、桜は櫻霞から離れようとする。 けれど、櫻霞は桜の手を瞬時に掴んだ。 「櫻霞様……」 「こうしていれば、安心だろ?」 二人の間に、しっかりと結ばれた手があった。 「はい」 桜は、一点の曇りのない笑顔で答える。 互いの手から伝わる温もりを感じながら、二人はゆっくりと街を歩く。 色取り取りのリボンや小物、雪に見せた綿で飾られたツリーや様々な商品が店頭のウィンドウを飾っている。 二人は次々と店を見ては語り合う。 そして、次に寄った店のショーウィンドウに、桜の目が釘付けになった。 ウィンドウの中に飾られた、小さな木製のオルゴールに魅入られたようだ。 ぜんまい仕掛けの独特な音色と共に、ツリーの周りを小さなサンタとトナカイがプレゼントを背負ってせっせと回っているのだ。 そのぎこちない動きに、桜はクスクスと肩を揺らした。 「可愛いですわね」 子供の様にはしゃぐ桜を見詰め、櫻霞は繋がれた手を強く握り締めた。 突然の行為に、桜は振り返る。 「ごめんなさい。櫻霞様は興味ないですわね……」 しゅんとする桜の手を引き上げ、櫻霞はその手にキスをした。 「俺には、桜がいればいい」 「櫻霞様……」 店頭の照明が櫻霞の瞳に反射して、穏やかな光を放った。 櫻霞の暖かな気持ちが伝わってくる。 桜は、じっとその瞳を見詰め返し、ゆっくりと言葉を放った。 「桜も櫻霞様の事が大好きですの……」 誰も入る事のできない瞬間。 二人だけの時間がそこにあった。
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