●『24時の悪戯』
クリスマスは年に1度の特別な日で、大切な相手と過ごす日。家族だったり恋人だったり、それぞれがそれぞれの時間を過ごすのだ。 久遠と彼方もまた、クリスマスを一緒に過ごす。今日は2人きりのクリスマスパーティ。彼方の部屋で大切な時間を過ごすのだ。 パーティの準備に彼方はキッチンで料理をしている。久遠に食べてもらいたいと張り切って腕を振るう。とにかく喜んで欲しいと、クリスマスならではの料理をたくさん作ってケーキも焼いてある。食べてもらうところを想像して、彼方は人知れず笑みを深くする。 料理が終わるまでの間することのな久遠はソファーで彼方を待っている。笑顔で料理をする彼女の姿は微笑ましくて、自分のために料理してくれることがとても嬉しかった。 「……ふぁ」 気付けば欠伸がこぼれてしまった。年末ということもあって、大学でも色々とあったし忘年会にも参加している。それに加え、能力者としての仕事もきっちりとこなしてきた。今日の為に頑張っていたのだが、その疲れが出てきているらしい。 眠ってはいけないと思いつつも少しくらい……という誘惑もある。なんとか起きようとするのだが、気付けば瞼が閉じてしまっていたのだった。 「くーちゃん、お料理できたよー」 気合を入れて料理を仕上げた彼方がテーブルへと料理の数々を運んできた。色とりどりの料理は見ただけで美味しいと分かる。 「頑張って作ったんだよ……って、あれ?」 反応がないことを訝しみ久遠を見れば瞼が閉じて寝ていることが分かった。 今日まで頑張っていた彼を知っている彼方は、お疲れなんだなと彼の横に腰を下ろして寝顔を見る。久遠を見る彼方の目は優しくて、眠ったことを怒ることはない。 ふと、悪戯心が芽生えた。普段はされてばかりな自分だけれど、今回はそのリベンジができるんじゃないかと。 「………っ」 緊張で顔が少し赤くなる。自分の顔をゆっくりと久遠へと近づける。 いつもされてる仕返しなんだから……と思うも勇気が出ない。口へキスしようとしたのだが、頬へとそっとしたキスに留まる。 やっちゃったと自分の中で照れる彼方だったのだが。 「俺はシンデレラじゃないんだけどな」 その声に彼方は一瞬固まるが、あわあわと慌てだして。 「えっ、いやこれはその……んっ!」 言い訳をしようとする彼方へと重なる久遠の唇。大切な相手への心ばかりの贈り物。 「カナも俺が眠ってると積極的なんだな」 「うっ、そういうわけじゃないんだけれど……」 真っ赤になって俯く彼方。リベンジのつもりが、結局いつものようにされてしまった。 久遠はそんな彼方を撫でて、嬉しそうな笑みを浮かべている。彼方からのキスは久遠にとって素敵な贈り物。さっきのはそのお返しのキスでもあった。 部屋の中に笑顔が溢れる。大切な相手と過ごすこの時間は愛おしい。恋人たちは温かく穏やかに、聖なる夜を過ごすのだった。
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