●『はっと、ほっと、はーと。』
最高潮まで盛り上がった学園での催しが終わり、直人と深緋は学園を後にする。 「やー、学園でのイベントは面白かったねー」 「はい、パイ投げも、プレゼント交換もとっても楽しかったのですね……!」 二人はそうして、街へと歩いていく。直人が深緋を連れてどこかへと出かけているようだ。 「深緋ちゃんも割と元気ッ子路線になってきたよね、色んな意味で」 「そ、そうですか……?」 そんな会話をしているうち、直人は一件の店の前で足を止めた。 「っとー、ここだここだ。俺のお気に入りの帽子屋です。俺の帽子のほとんどはここで買ってます」 深緋はきょとんとして、その店を見る。 「所謂ヒトツのマイベストプレイス! いつも一人だけど、たまには誰か連れてくるのもー」 深緋はさらにきょとんとして、今度は直人を見やる。 「あ、当然、深緋ちゃんが特別だからですよ、フフフ……!」 その言葉に、深緋は真っ赤になってしまう。恥ずかしがってもじもじと俯いてしまう。 「連れて来て貰えて、嬉しい、な」 そんなはにかむ深緋を連れ、直人は店内へと入る。 「世界各国、色んな帽子があるんだよね。変なのもあるけど」 確かに、様々な形状、たくさんの帽子が店内を埋め尽くしている。深緋はその店内を物珍しそうに眺めていた。 「あれなんか映画や本に出てくる海賊さんの帽子みたい……」 「深緋ちゃんに似合うのとかあるかなー、プレゼントするよー」 そこで出てきた店員に直人は挨拶をする。 「あ、店長こんばんはー! メリクリー! 『俺の彼女』を連れてきたのでちょっと見せてもらいますね!」 店員は直人に向け、軽く会釈する。 「ふふ、帽子のプロフェッショナルの腕の見せ所?」 深緋がそう言うと、直人は余計に張り切ってしまったようで、店員に相談の上であれやこれやと物色を始めた。 「ハット系とか……いや、むしろあっちの国の方のコレとか……。悩むなー、これも捨て難いし、こっちも……」 直人は店員に持ってきてもらった帽子を品定めする。一つの帽子を深緋へと手渡す。深緋はちょこんとそれを頭に載せた。 「えと、どうでしょう?」 「いや、こういうんじゃないんだよな……」 直人はその帽子を店員に返し、違う帽子を深緋に手渡す。深緋は再度頭へと帽子を被せる。 「ううん、これも違うな……」 直人は深緋の頭から帽子を取って、また違う帽子を深緋へと渡す。 しばらく、こうして深緋は直人から渡される帽子を次々と被っていく。 必死に帽子を選ぶ直人を見て、深緋はくすりと笑う。 (「今度こっそり、店員さんに相談して、直人さんに似合う帽子、サプライズで卒業祝いのプレゼントとか、したいなぁ……」) そうして、深緋はまた新しい帽子を被りながら、そんなことを考えるのだった。
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