●『クリスマスだから』
スキー場に来た二人は何故か二人はサンタのコスプレをしていた。 とりあえず山頂まで上がってきたが、そろそろ説明が欲しくなり、孔臥はなのはへと問いかける。 「とりあえず、渡されたから着替えたわけだが……何故、私がこんな格好を?」 彼の問いに対し、なのははさも当然と言いたげな表情で答えた。 「クリスマスだから」 今ひとつ釈然とせず、孔臥はまたも問いかける。 「……なにかの仕事なのか?」 「クリスマスだから?」 だが、返ってきたのは先程と大差ない言葉だ。 「何故に疑問系かね……?」 とうとう疑問形になってしまった彼女の返答が、孔臥の困惑に輪をかける。 だが、なのはは特に考え込むこともなく、たった一言で言いきった。 「きっとクリスマスだから」 「そうか、クリスマスだから、か」 「うん」 一瞬たりとも考えずに返答するなのはに、孔臥は妙に納得してしまった。 孔臥はこのやり取りの中で、状況を把握していた。 この格好はなのはの思いつきで、きっと深い意味など無いのだろう。 (「なら、逆手にとってやろう」) そう思い立ってからの孔臥は早かった。 いきなり、なのはを『お姫様抱っこ』して滑り出したのだ。 孔臥の行いがあまりにも急で、なおかつ内容の方も意表を突いていたこともあって、なのははすっかりうろたえていた。これでは、先程と立場が全く逆もいいところだ。 「ふぇ、なんでお姫様だっこですか!」 あまりにも慌てているのか、そのせいで孔臥に文句を言う前に可愛い声がなのはの口から漏れる。 大慌てでうろたえるなのはとは打って変わって、孔臥は上機嫌で叫んだ。彼の声は雪に覆われた山々に反響して、辺り一面に響き渡る。 「クリスマスだからだ!」 元々、白一色の風景の中に赤色をした服装の男女が立っていただけあって、二人の姿はやたらと目立つ。 それに、それほどスキー客が多いわけでもない状況も相まって、ただでさえ二人の姿は周囲からの視線を一手に集めていたのだ。 その状況で、なおかつ大声で叫べばどうなるか――。 答えは単純明快。誰よりも、そして何よりも目立つ。それに違いない。 「は、恥ずかしいのでおろしてください!」 ゲレンデになのはの絶叫が響き渡った。 恥ずかしさに顔を真っ赤にして抗議するなのはだが、結果として彼女の絶叫がより衆目を集める手助けをしてしまったせいで、より恥ずかしい思いをする羽目になる。 「普段やれんのだ、いいじゃないか、クリスマスだし?」 なのはが恥ずかしさに縮こまる一方で、孔臥はより一層活き活きとしていく。 本当に楽しそうに周囲からの注目を集めていく彼の笑顔は「何の問題がある?」と言外に言っているようだ。 「うぅ〜!」 なのはが孔臥の腕の中で恥ずかしそうに声をもらす間にも孔臥は軽快に滑っていく。 もうすぐ麓が見えてくる。この滑走はもう終点だ。 この滑走は終わっても、仲良き二人の楽しき日々は、いつまでも続かんことを。
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