秋月・慎斗 & イスラフェル・フォルクローレ

●『穏やかな時間を、ずっと…』

「クリスマスに温泉というのも、意外性があっていいですわね」
「まさか、一年の最後にこんな機会が巡ってくるなんてね」
 貸切の露天風呂には冬らしく、うっすらと雪が積もっている。ちらちら、ひらひらと、重たい夜空から落ちてくる雪の結晶を手のひらで受け止めて、慎斗は照れ臭そうに笑った。慎斗に背中を向けながら湯につかるイスラフェルも恥ずかしそうにはにかんでいる。
 ケーキやツリー、イルミネーションはないけれど、今は愛しい人と二人きり。誰も邪魔しないつかの間の安らぎは、福引の神様という名のサンタクロースが二人にくれた贈り物と言っていいだろう。

「そういえばこの間、帰り道で美味しい和食屋さんを見つけたんだ」
「あら、素敵ですわ。今度ご一緒させてくださいませね?」
「勿論だよ」
 お互いがお互いを意識して照れてしまうものの、二人の距離は少しずつ縮まってゆく。好きなもののことや、最近あった出来事など、いつでも出来るはずの他愛も無い会話が何より嬉しい。
「……」
 ふと、何かのはずみに途切れる会話。紛らわしていたはずの照れ臭さをまた感じ、イスラフェルがぎこちなく問いかける。

「……慎斗君?」
「うん……」
 慎斗が、温泉でほんのりと上気したイスラフェルの頬に指先で触れてみる。外気に当たったせいか、見た目よりも冷えていたことに少し驚き、それから指先ではなく手のひら全体で頬を包むように触れる。
「愛しい人と同じ場所で、同じ時間を過ごせる……幸せ者ですわ、わたしは」
「イスラがそう言ってくれるなら、俺も引き当てた甲斐があるってものだよ」
 もう少しだけ、傍に。いつもより、近くに。外気のおかげで湯あたりはしないものの、二人は胸の高鳴りを抑えきれない。頬を包む慎斗の手を取り、イスラフェルは心からの微笑みを見せた。
 クリスマスらしくないクリスマスの夜。刻まれた思い出は、雪よりも美しく、温泉よりもあたたかい。どうか、この思い出がいつまでも色褪せないよう。そんな祈りを込めて、二人の唇がそっと重なった。



イラストレーター名:架神玲那