●『二人きりのホワイトクリスマス』
「ホワイトクリスマス、か」 「……そうだな」 ふわりふわりと、空から舞い落ちる白く冷たい氷の結晶の粒を見上げ、ぽつりとカッツェは呟いた。 傍らに寄り添うようにしながら、ヴィクトールは夜闇につつまれた空を見上げ、言葉少なく応じた。
二人が所属する結社で催されたクリスマスパーティを、二人だけでこっそりと抜け出して、たどり着いた公園。 淡い白光をはなつイルミネーションがきれいだったが、冬の寒さに、静かに降る雪が重なり、クリスマスだというのに、ライトアップされた公園に人の気配は、ない。 クリスマスのライトアップが始まってから今日まで、常に誰かしらが座っているベンチも、今は空いていて。 二人は寄り添って、座る。 「パーティの熱を冷ますには、ちょうどいい」 瞳を細めて、小さく笑ったヴィクトールに、カッツェが金色の瞳をゆるめる。 「……でも冷やしてはいけない、風邪を引く。だから」 ふわりと巻かれたのは、雪の白さにも負けない真白の、そして長いマフラー。 長いから二人で巻くこともできると笑うカッツェを、ヴィクトールは抱き寄せる。 「マフラーもあたたかいが、この方がもっとあたたかい」 瞳を瞬かせ、次いでほんの少しはにかむように笑ったカッツェの表情は、本当の猫のようにくるくるとよくかわる。魅力的でいつも見ていたいと思う彼女の顔が、息が触れる程、そばにある。 真正面から瞳が合い、視線が結びつく。 そして、二人の影が、重なった。
どちらが、ということもなく。 自然に、引き寄せられるように、惹かれるように重ねられた唇。 重ねてきた苦い過去の上に立つ自分。 自分には無関係だと思っていた色恋沙汰。 けれど大切な人ができた。 それぞれ、積み重ねた、重ねていく中で手にした大切な人。
ヴィクトールのコートの内には、銀の懐中時計。 カッツェの指には、白銀の指輪。
そこに刻まれる狼と猫のように二人、クリスマスの夜を降り積もる雪をながめる。 今年も二人きりで過ごすことができることが幸せだと思い、時間が経つのも忘れ過ごした。
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