●『☆2人だけの舞踏会☆』
聖なる夜。 夜空が、星の光で飾られている。瞬く光は、まるで宝石がきらめくよう。 天空の宝石が祝福するかのように、地上を二人の少女が、白きステージ上へと進み出ていた。 一人は、燃える炎のごとき、赤色のドレスを着た少女。流れるような赤色の髪は、紅蓮の炎が舞うかのよう。 紅玉の瞳を持つ少女の名は、エトナ・ファンタリズム。 そして、もう一人。こちらは蒼きドレスに身を包み、優しく光る月のよう。髪の色は灰だが、エトナは見るたびに思う。穏やかに夜空を流れる、天の川みたいだと。 紫水晶の瞳を持つ彼女の名は、スペルヴィア・スパーダ。 スペルヴィアの前で、エトナは眼を輝かせた。 「うわ〜! すっごい! これって物凄く、綺麗な会場だね♪」 ダンス場には、飾りつけなど施されていない。人の手が入っているのは、唯一『雪兎』のみ。ダンス場の周囲を囲むように、ぐるりと雪兎が並べられていたのだ。 そんな舞踏の会場には、二人以外に人影どころか、動物の姿も無かった。唯一見つめているのは、並んだ雪兎の群れ。 「そうですね……とっても、綺麗な舞台です」 スペルヴィアの返答を聞いて、エトナは微笑んだ。 「白い雪も、星でいっぱいの夜空も……みんな、綺麗だよっ♪ でも、それから……」 一息ついて、エトナはその言葉に付け加える。 「それから……スペルお姉さまも、物凄く綺麗だよ♪」 「えっ……」 その言葉に、スペルヴィアは驚いたような表情を浮かべた。その顔に、頬に、紅が差すのをエトナは見た。 けれど実際。お世辞抜きにエトナは、目前の少女に、スペルヴィアの美しさに見とれていた。蒼いドレスに、白い肌。長い髪に、体中から漂わせる雰囲気。同性ゆえに解る、そして同性だからこそ憧れる、女性の輝きと美しさ。エトナはそれらを、彼女から感じていた。 「はは……では……」 そんなエトナに対し、スペルヴィアは苦笑しつつ、スカートの裾をつまんで静かに頭を下げた。 「では……一曲願えますか? 姫君」 次は、エトナが驚く番。自分の頬が熱を帯び、周囲の冬の空気が、一瞬感じられなくなるほどに熱くなる。 「もちろん、喜んで!」 拒む選択肢などない。赤きドレスの姫君は、蒼き狼の美少女に倣い、同じくスカートの端をつまみお辞儀をした。 エトナが差し出した手を、恭しくスペルヴィアが取る。ダンス会場の白銀の中心へとエスコートされたエトナは、スペルヴィアと同じように腰に手をやり、手と手をとった。 赤と蒼の美少女が、互いに互いを見つめあう。 楽曲など要らない。既に互いの鼓動が響き、それは甘美な音楽になり互いに伝わっている。 装飾も要らない。既に互いの瞳が見つめあい、互いの瞳の輝きを共有している。 暖房も要らない。既に互いのぬくもりが、互いを暖めあっている。 二人は、いつまでも踊り続けていた。聖夜が明けるまで、二人の美少女が奏でるダンスは、途切れる事なく続いていた。
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