●『聖夜の一幕』
クリスマスは、イブの日から一緒に。そんな風に約束した幽鬼と美月は、幽鬼の自宅にてロールケーキ作りをする事にした。中身はお互いに持ち寄り、巻く時に明かそうという約束もしていざ当日。 「さて、始めましょうか」 「は、はい! 今日はよろしくお願いします!」 幽鬼は猫の刺繍が入った黒のエプロンをつけて道具の準備を始める。美月はというと結構緊張していて、フリルがついたピンクのエプロンをつけた後に材料の準備にとりかかる。お互い人並みに料理はできるのに、今日は小さなキッチンで一緒という事もあって、内心ドキドキだ。さて、スポンジ生地を混ぜたり、生クリームを泡立てしたりと二人で役割分担して手際よく進めていく。ただ時折。 「きゃー!」 「み、美月様!?」 ハンドミキサーがボウルに当たって、生クリームがちょっと飛んだり。 「大変、そろそろ生地が焼ける時間ですっ!」 スポンジ生地が焼ける時間を失念していたり。やっぱりお互い緊張気味。 (「うう、緊張しますね。落ち着かないと……」) 時折幽鬼の様子を伺いながら、道具を取るふりをして後ろを向き、呼吸を整える美月。そっと胸を押さえて深呼吸して、さあ、続きを頑張ろう。 (「自分の家でも、美月様がいるだけで随分変わりますね」) 平気そうな顔をしている幽鬼も、内心どきどきものだった。勝手知ったる自分の家とはいえ、彼女がいるとなんとなく空気が変わるというか、なんというか。微妙に緊張してしまう。さて、そんなトラブルはありつつも、土台とクリームの準備が完了。あとは中に具を巻くのとデコレーションだ。 「私が準備したのはこれです!」 「私はこれを」 お互いにせーので、具を見せる。そのラインナップは……美月が、缶詰のミカンとパイン。幽鬼が、缶詰のミカンと新鮮なオレンジ。お互い見合わせて目をぱちくりさせると、ちょっと噴出してしまう。 「被ってしまいましたね」 「で、でも、大丈夫ですよ」 ちょっと被ってしまった具も、お互いを近くに感じて、なんとなく嬉しい。二人で仲良く具を並べ、巻いて、生クリームを上から塗ってイチゴを飾り付けて。 「ふふ。こんなものも持ってきましたよ」 デコレーションの最後に、美月がチョコレートで出来たプレートを乗せれば完成。プレートには、『Merry Christmas』の文字。 「うん。綺麗に仕上がりましたね。美味しそうです」 「完成ですね。でも、思ったより時間がかかってしまいました……」 ちらりと時計を見ると、予定よりも少し時間をオーバーしてしまっていた。 満足げに眺めていた幽鬼は、不意に手を伸ばし、クリームをひょいと指先ですくいとって、ぱくり。 「うん。美味しいです」 「あ、幽鬼さんっ、ずるいです!」 まあまあとなだめる幽鬼と、ちょっぴり怒った美月。でも、その後ちゃんと切り分けて、仲良くご馳走になる。いつも食べるケーキよりも、ほんのりと甘いような気がした。
| |