●『静かに雪が降る夜に……』
「どうしようかな……」 ルローナは扉の前でしばし足を止めていた。 恋人たちにとって特別な日、クリスマス。 雪がパラパラと降り出し、外も寒くなっているため、早くこの扉を開けて己の大切な相手である錬の下へ行きたいという気持ちはある。 だが、踏み出せない理由が一つ。 去年、錬からは長いマフラーを貰った。しかし自分はというと最後まで考え付かず、キスという形をとった。 そして今年。 今年も、やはりなかなか思いつかず、そんなルローナを知ってか知らずか、錬からは呼び出しの手紙が。 手紙の内容に書いてあった場所まで来たものの、扉の前で立ち往生する羽目になった。 今年も手元にプレゼントはない。それでいいのだろうか、と。やはり何かもって来るべきではなかったのか、と。 数分待ったが、思い浮かばない。考え付かない。今となってはどうしようもない。 ルローナは小さくため息をつき、そっと扉をノックして、ゆっくりと開いた。 「……えっ?」 暗い部屋の光源はところどころに置かれたロウソクだけ。 それが神秘的で、幻想的で、なんともクリスマスらしい雰囲気を出していた。 「遅かったな」 奥を見ると、広いテーブルの前に錬が立っていた。 手招きをされ、ルローナはそちらへと向かっていく。 導かれて椅子に座ったルローナは、その不思議で美しい世界に心を奪われながらも、プレゼントを用意していない現状に心臓をドキドキさせながら下を向いていた。 ここはプレゼントを持ってこなかったことを謝るべきか。それとも相手からのアプローチを待つべきか。 そんなことをグルグルと考えていると……。 コトッと。 下を向いていた彼女には見えなかったが、錬がそっと机の上に何かを置いた。 ゆっくりと、ゆっくりと。 顔を上げると、そこには指輪が入ったケースが。 「こ、これ……」 驚いてそれを見つめるルローナ。驚きのプレゼントに、何がどうなっているのか分からないでいるようだった。 錬は少し照れた顔をしていたが、何も言わずにルローナからの行動を待っている。 ルローナもそれに気づいたのか、指輪と錬を何回か往復して見て、だんだんと笑顔を作っていく。 ほんのりと頬を赤らめながら、差し出したのは左手。 錬も優しくその手をとり、右手に指輪を取る。 ゆっくりと、ゆっくりと。 はめられていく指輪。ルローナの薬指にぴったりとつけられた愛の証。 二人の間には、お互いを思いやる優しい笑顔があふれていた。
まだ、クリスマスの夜は続いていく。 そんな二人を見守るように、窓の外ではしんしんと、静かに雪が降り続けていた。
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