●『約束の指輪、誓いのキス』
煌びやかなイルミネーションで着飾った木々が並んでいた。 その中で、少し大きな桜の樹にヤドリギが寄り添うように絡みつき、その果実はあたかも桜の樹が実をつけているように見える。 今は『桜』ではなく『ヤドリギ』として、その果実をイルミネーションの中に自然に溶け込ませていた。 「……あ、うん……えーと、燐に渡したいものがあって」 そのヤドリギの下、イクスが胸の内ポケットから小さな箱に入った指輪を取り出し、 「君にこれを。出来れば左手の薬指に嵌めて欲しい……」 少し照れながら、柔らかく微笑んで差し出した。 「あ、指輪ですね、嬉しいです。……え、左手……!」 燐はそのシンプルで綺麗な指輪に瞳を輝かせ、少し遅れて、その意味に気付き驚く。頭が真っ白になりながらも、おずおずと左手を差し出した。 イクスの左手が、燐の差し出された左手を取ると、右手で薬指にゆっくり嵌める。それは燐の指に嵌るためにあったのかと思う程、ぴったり嵌った。 「嬉しい……、夢みたいです」 夢見心地で呟いた燐は、左手の指輪を抱きしめる。そして、嬉しさに潤んだ瞳でイクスを見つめた。 「好きだよ」 イクスは優しく囁くと、燐の頬に手を当てる。燐はゆっくり目を瞑って、二人の唇が優しく重なった。 名残惜しそうにお互いの唇が離れ、 「僕こそ、受けてもらったって思っていいよね? 今はまだ正式には申し込めないけど、想いは真剣だから」 正式に申し込むにはあと2年待たなければならない。 待てない。この想いは褪せるどころか、日に日に大きく膨れる。欧州で闇の世界に生きていたイクスは、この日本で光を見つけた。1日でも早く、1日でも長く一緒にいたい。 真っ直ぐで真剣な眼差しでイクスが口を開く。 「はい、私の気持ちも貴方と一緒です」 幸せそうに微笑んで頷く燐の目尻が光っているのは、イルミネーションのせいだけではない。
これから先の人生を共に歩みたいと願った二人の誓い。
どうか二人の未来が末永く幸せでありますように。 ヤドリギの祝福があらんことを――。
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