●『幸降る夜の贈り物』
粉雪の舞うクリスマスの夜。あちこちにあるささやかなイルミネーションの明かりを反射し、ロマンチックな灯火が閑静な住宅地を照らす。パーティーからの帰り道、『一人では危ないから』と、沙衣は想夜を家まで送る事になったから、こうして彼女の家まで二人一緒に歩く。歩けば歩いた分だけ、道行く人も少なくなる。やがて、聞こえるのは二人の雪を踏む音と、話し声だけになった。 「パーティー楽しかったね♪ 美味しい物も一杯食べたし、色々お喋りできたし」 想夜は彼の隣を歩き、楽しそうに今日の話をする。今日の彼女は、誰の目から見ても綺麗だ。 「ああ、久々に楽しく騒げたな」 ある決意を秘めた沙衣は、自分の想いを押し隠し、冷静を装うだけで精一杯だ。 「沙衣さん、送ってくれてありがとう。ホント言うと、1人で帰るのは心細かったの」 彼の顔を見上げながら、想夜は少しだけすまなそうな顔。沙衣さんに送ってもらえるのはとびっきり嬉しかった。けど今、もし告白しても平気かな。引かれたりしないかな。そんな風に考えながら、想夜も心が揺れていた。 「女の子を送ってくのは当然だろ?」 照れ隠しにほっぺたを掻いて、彼女の話に相槌を打つ。時間がかかればかかるほど、沙衣の気持ちも昂ぶっていく。雪の夜に溶けて消える真っ白な吐息とか。寒いのか、少し赤い頬とか。ちらちらと彼女の姿を見るだけで、心がいっぱいになっていく。 (「やべぇな……早い所渡さねぇと」) ポケットの中のものを弄びながら、沙衣は焦る。しかし時間は無常にも過ぎていき……とうとう、家の前についてしまった。純和風の佇まいを見せる一軒家の門を潜り……その前に、想夜はくるりと振り返る。 「沙衣さん、今日はありがとう。楽しかったよ。それじゃ……」 彼女の笑顔に、感情のリミッタが限界を超えた。今しかない。沙衣はとっさに小箱を取り出し、彼女の前に突き出す。 「あのさ! これ、やる!」 (「なんだこの物言いは。これじゃまるでなってないじゃないか!?」) 思い切り赤くなった顔を逸らし、凄まじい後悔と緊張に襲われる沙衣。一瞬、静けさが場を支配する。後悔の念に囚われ、今にも走り出しそうな気持ちになった瞬間、彼の体はぎゅっと力いっぱい抱きしめられていた。 「ありがとう!!」 「あ……」 想夜の、目いっぱいの感謝表現だった。淡く秘めた心が溢れ出し、普段なら出来ない事でもできてしまう。嬉しい、嬉しい、嬉しい! 幸せで、心が満たされていく。沙衣も、嬉しいにはうれしいけれど……抱きつかれて動けず、少し恥ずかしい。 「あ」 現状に気づいた想夜の動きは素早かった。慌てふためきながら、家の中へと撤収していく。 「あのその、えと、んと……お、おやすみなさい!」 「お、おやすみ」 そのまま家の扉は閉められる。ぽつんと一人取り残された沙衣。想い通じ合うのはいつの日か。空は黙って、ただ二人を見ていた。
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