ヴェティル・ソリクーン & 沢下・絵毬

●『猫可愛がりのクリスマス』

 クリスマスのデートにどこへ行くか、というのは、ヴェティルと絵毬にとって重要な問題だった。
 去年のクリスマスは受験に忙しくて、デートどころではなかったのだ。勿論クリスマスそっちのけで頑張ったからこそ、自分達が望んだ道へ進めたわけだが、それでも今年こそは、恋人としてはじめての、のんびりクリスマスデートを満喫したい。
 あれこれ悩んで最終的に二人が選んだのは、猫と触れ合え、まったり過ごせる猫カフェだった。獣医を志すほど動物が好きな絵毬と、クールな見かけによらず実は動物好きなヴェティルの二人がのんびり過ごせるとなれば、ここしかないだろう。

「一度で良いから猫の海の中に埋もれてみたかったの……!」
 猫カフェに入った瞬間、猫まみれの空間に、絵毬は両手を組んでうっとりした表情を浮かべた。
「これは凄い……」
 そんな絵毬とは正反対に、ヴェティルはいつも通りのクールな様子である。しかし、それは表面だけで、その内面は絵毬同様、猫に萌え滾っていた。
「可愛いっ!」
 早速子猫を両腕に抱え、絵毬はご満悦の表情だ。
 そっとほお擦りすれば、人懐こい子猫はごろごろ喉を鳴らしながら、ヒゲを震わせた。小さい身体にアンバランスなほどの大きな瞳と大きな耳が、より愛らしさを強調していて、そんな子猫に首を傾げて見上げられたら、猫好きにはもうたまらないものがあるようで。
「私、猫に魅了されて戦闘不能になっても良い! 幸せすぎて昇天しちゃいそう……!」
 そんな絵毬をヴェティルは、最初のうちは微笑ましく見守っていたものの、折角のデートだというのに自分そっちのけで猫に夢中なその様子が、少しばかり面白くない。子猫相手に満開の笑顔を見せる絵毬を見ているうちに、とうとう我慢できなくなって、彼女の腕の中の猫たちを驚かさないように後ろからそっと抱き締めた。
「ヴェティル君はどんな子が好き?キジトラや三毛も可愛い……、ん?」
 突然抱きしめられ、絵毬は驚いてヴェティルを見上げる。クールな赤い瞳に、僅かに拗ねた色を見て、絵毬はデートにも関わらず、猫に夢中だった自分にはっと気がつく。
「ぅ……ごめん、拗ねないで?」
「子供みたいな嫉妬だったな」
 子猫相手に恥ずかしい、と少し照れたように笑うヴェティルに、絵毬は腕の中の子猫を放すと、ヴェティルの腕の中で回って彼に抱きつき、黒いシャツに顔を埋めた。
「ううん、絵毬は貴方だけの猫だからいっぱい愛して欲しいの。ご主人様が貴方だから幸せなの」
 そう囁いた絵毬をよりいっそう抱きしめて、ヴェティルは満足げに目を細める。
「猫だけでなく、絵毬も愛でていたいんだ」
 そんな二人の足元で、子猫が自分も構え、と主張するかのごとく、にゃあと鳴いた。その声に、二人は目を合わせて笑いあう。
 二人ののんびりクリスマスデートは、猫だらけの可愛らしいものになりそうである。



イラストレーター名:naru